1999年
地球惑星科学関連学会合同大会

GPSデータのインバージョン解析から推定したプレート間カップリング

伊藤武男・吉岡祥一・宮崎 真一

本研究では、1 9 9 6年4月1日−1 9 9 8年3月2 0日の期間中に国土地理院の全国GPS連続観測網で得られた水平速 度・鉛直速度を用いて、東北日本と西南日本の下に沈み込む海洋性プレート上面の3次元的な形状を考慮し、半無 限均質完全弾性体を仮定してA B I C(赤池のベイズ型情報量基準)を用いた地殻変動データのインバージョンによ って、海洋性プレートと陸側プレート間のカップリングの空間分布及びプレート相対運動の方向を求めた。 近年、日本列島の地殻変動は国土地理院による全国GPS連続観測網により明らかになってきており、そのデ ータを解析することでプレート間カップリングを推定することができるようになってきた。本研究では、国土地 理院によるG P S観測点で得られた水平速度・鉛直速度を用いて、東北日本と西南日本の下に沈み込む海洋性プレ ート上面の3次元的な形状を考慮し、半無限均質完全弾性体を仮定して、A B I C(赤池のベイズ型情報量基準)を 用いたインバージョン解析(Yabuki and Matsu'ura,1992)によって、海洋性プレートと陸側プレート間のカップリン グの空間分布及びプレート相対運動の方向を求めることを目的とした。 本解析に用いたデータは国土地理院のG P S観測による1 9 9 6年4月1日‐1 9 9 8年3月2 0日までの約2年間の3成分の変 位データと1σの観測誤差である。G P Sデータの水平成分はT S K B(北緯3 6 .1 0 3°,東経1 4 0 .0 8 8°)を固定点とする 相対的な変動であり、このデータから正確なプレート間カップリングを推定することは困難であり、上盤側のプ レート内に太平洋プレートの沈み込みによる弾性変形を受けない場所に固定点を設定する必要がある。しかし、 日本列島上でそのような場所を見出すことは困難である。そこで、我々は各G P S観測点での水平変位を辺長変化 に変換したものをデータとして用いることによって、固定点の変動による問題を解決した。東北日本では1 6 1点の 水平変位のデータを4 1 0の辺長変化に変換し、西南日本では2 4 7点を6 6 6の辺長変化に変換した。また、上下動デー タに関してもTSKBに対する相対的な変動であるため、検潮データを用いて各GPS観測点での絶対変動を推定した。 しかし、上下動のデータと水平動のデータでは精度に著しい違いがあり、インヴァージョンに際してはこのこと を考慮する必要がある。そのため、観測で得られている1σの誤差楕円を考慮した重みをかけることによって、 水平動、上下動ともより現実的な解析を行った。

<東北日本>
北海道南東沖のモデル領域において最大9 .8 c m / y rのバックスリップが見られた。大きなバックスリップを示す 領域(4 .0 c m / y r以上)での平均のバックスリップの大きさは6 .8 c m / y rであり、平均の方向はN 7 8°W±1 3°と求まっ た。この付近でのプレート運動モデルから見積もられた太平洋プレートの沈み込み速度は7 .8 c m / y rであり、プレ ート間カップリングはこれまで考えられていたよりもかなり強いと思われる。この領域では1 9 5 2年の十勝沖地震 (M 8 .1 )以降、海溝型巨大地震が発生しておらず、この強いカップリングは次の海溝型巨大地震に向けた応力蓄積 過程を示唆している可能性もある。また、相対運動の方向もプレート運動モデル(N63°W)と同様な方向を示した。 一方、東北沖のモデル領域において、カップリングの強い領域が1 9 7 8年宮城県沖地震(M 7 .4 )が発生した震源域 を含む三陸海岸沖付近に見られ、最大のバックスリップの大きさは1 0 .6 c m / y rとなった。大きなバックスリップを 示す領域(4 .0 c m / y r以上)での平均のバックスリップの大きさは6 .7 c m / y rであり、平均の方向はN 7 3°W±1 5°と求 まった。また、このモデル領域内の青森県東方沖に最大5 .5 c m / y rのフォワードスリップが見られた。これは、 1994年三陸はるか沖地震(M7.5)の余効変動が現れていることを示唆しているのかもしれない。 また、北海道南東沖・東北沖の両モデル領域でバックスリップが急激に小さくなる深さは約5 0〜6 0 k mであり、 岩石の変形実験に基づくShimamoto (1990)の東北日本でのレオロジーモデルと調和的である。

<西南日本>
以前、我々が行った水平速度ベクトルのインバージョンの結果見られていた日向灘沖のフォワードスリップが 今回の解析ではほとんど見られなくなった。このことは、九州の変動が、フィリピン海プレートの沈み込みに伴なう弾性変形の影響をほとんど受けておらず、沖縄トラフの拡大や東シナ海でのupwelling 等の影響受けて、南東 向きの変動を示していることを示唆している。 四国〜紀伊半島にかけてのモデル領域では、四国沖から熊野灘付近にかけてカップリングの強い領域が見られ、 四国沖で最大7 .0 c m / y rのバックスリップを示している。これらは、1 9 4 6年南海地震(M 8 .1 )、1 9 4 4年東南海地震 (M 8 .0 )時の大きなすべり領域に対応している。また、約4 0 k m以深のモデル領域ではプレート間カップリングが急 激に弱くなる傾向が見られた。四国〜紀伊半島にかけてのモデル領域での平均的なバックスリップの方向はN 5 3° W±3°となった。