1999年
地球惑星科学関連学会合同大会

パイロライト組成を仮定した上部マントル内の物性値と地震波速度構造の関連性

村上暢・吉岡祥一

本研究では上部マントルをパイロライト組成と仮定し、オリビン、輝石、ガーネットの鉱物物性値に対し、高 温高圧実験の結果から得られているある範囲内でランダムに値を決定し直し、状態方程式を用いて地震波速度構 造の深さ分布を計算した。得られた速度構造とi a s p 9 1を比較することで、上部マントル内の物性値と地震波速度構 造の関連性について検討した。その結果、地震波不連続面における速度ジャンプを十分に復元することはできず、 本研究で用いた物性パラメターのとりうる範囲は十分に上部マントル内の物性を満たすと考えられることから、 地震波速度構造を説明するには温度分布と組成についてより詳細な検討が必要であると考えられる。 上部マントルを構成する主要な鉱物としてオリビン,輝石,ガーネットが挙げられる。これらの鉱物の弾性的 性質やその温度・圧力依存性が明らかになれば、状態方程式の適用により地球内部の条件下でのモデルマントル 物質に対する地震波速度の深さ分布を計算することができ、地震学的に求められている地震波速度の深さ分布と 比較検討することが可能である。しかし現在、鉱物物性の高温高圧実験による測定結果は弾性的性質については ある程度、精度よく決定されているものの、その温度・圧力微分値についてはまだ不確定性が高いと考えられて いる。本研究では上部マントルをパイロライト組成と仮定し、モンテカルロ法を用いて、高温高圧実験の測定の 結果を基に、ある範囲内で物性パラメターをランダムに決定し直し、各々のモデルに対し各温度・圧力における 地震波速度構造を計算した。本研究ではオリビン(M g 0 .8 9 F e 0 .1 1)2 S i O 4の高圧相への相転移にる発熱、吸熱反応 を考慮して温度構造を見積もっており、ここではマントルジオサームに沿う地震波速度を地震波速度の深さ分布 とした。得られた地震波速度とグローバルな速度構造モデルであるi a s p 9 1を比較し、これらの計算を約1 0万回程度 繰り返して、残差の小さいものを適当なモデルとした。さらに温度構造の違いが地震波速度構造に与える影響に ついて調べてみた。 一般に深さ4 1 0 k m、6 6 0 k m地震波不連続面における地震波速度のジャンプはそれぞれオリビンのα→β,γ→ P v +M w相転移に依存すると考えられている。しかしながら、今回、残差が小さいモデルの中には地震波不連続面 における速度ジャンプ量を十分に説明することができるモデルは見い出せなかった。モデルの中には2つの地震波 不連続面の速度ジャンプ量を十分に満たすモデルも存在したが、その場合残差が小さくはならなかった。よって 物性パラメターの妥当性を検討しつつ、温度分布及び組成に検討の必要があると考えられる。さらに温度構造の 違いによる影響に関しては、4 1 0 k m地震波不連続面における速度ジャンプはα→βのclapeyron slopeの勾配が正で あることを反映して温度が高くなるとより深い深さからはじまり、温度が低くなるとより浅い深さから始まった。 これに対して6 6 0 k m地震波不連続面における速度ジャンプはγ→P v +M wのc l a p e y r o n s l o p eの勾配が負であるた め、温度が高くなるとより浅い深さからはじまり、温度が低くなるとより深い深さから始まった。今回用いたマ ントルジオサームから復元される地震波速度構造は410,660km地震波不連続面における速度ジャンプが浅い段階 から始まっている。このことから今回用いたマントルジオサームよりも4 1 0 k m地震波不連続面における温度が高 く、6 6 0 k m地震波不連続面における温度が低ければ地震波不連続面における速度ジャンプの始まりがうまく説明 できる。