1999年
地球惑星科学関連学会合同大会

堆積盆地において観測された沈降史と引き伸ばし量

山崎雅・中田正夫

McKenzie (1978)により提唱された単純引き伸ばしモデルは、堆積盆地の初期沈降とそれに続く熱沈降を第一近似的にはうまく説明できる。しかし、M c K e n z i eモデルと矛盾する多くの観測事実が指摘されており、その議論に決着をみていない。今回我々は、地域の異なる12ヶ所の引き伸ばし盆地の沈降史を解析した。その結果、次のことが明らかとなった。
(1)ほとんどのリソスフェアの厚さにおいて、観測される初期沈降量はM c K e n z i eモデルから得られるものより小さく、引き伸ばし量が大きいほどその差は大きくなる。
(2)引き伸ばし量はリソスフェアが厚いほど小さい。
McKenzie (1978)により提唱された単純引き伸ばしモデルは、堆積盆地の初期沈降とそれに続く熱沈降を第一近似的にはうまく説明できる。しかし、M c K e n z i eモデルと矛盾する多くの観測事実が指摘されており、その議論に決着をみていない。M c K e n z i eモデルにおいて、リフトの形成はリソスフェアの一様引き伸ばしの結果として記述される。初期沈降は引き伸ばしと同時に生じ、それはマントルと比べて密度の小さい地殻が薄くなることと高温のアセノスフェアが受動的に上昇することに対するアイソスタティックなレスポンスによるものである。沈降前に地表面が隆起していたことがよく観測されるが、地殻の厚さが30km以上もある大陸では、M c K e n z i eモデルを用いてそれを説明することはできない。引き伸ばし後、リソスフェアを引き伸ばし前の熱的状態に戻すべく、熱の拡散冷却が生じる。したがって引き伸ばし後の沈降はリソスフェアの熱収縮に関係して生じる。熱沈降量は熱異常量により決まり、それはリソスフェアの厚さと引き伸ばし量に依存している。多くの堆積盆地において、小さな引き伸ばし量でM c K e n z i eモデルよりも大きな熱沈降が観測されている。M c K e n z i eモデルでは引き伸ばしのみが沈降の原因としていることが問題なのである。また、熱沈降の途中からの加速がしばしば堆積盆地において観測されているが、このこともM c K e n z i eモデルは説明することができない。なぜなら、リソスフェアの熱収縮のみで沈降が生じるためである。これらの観測事実から大陸リフト形成に関するの重要な情報が得られるかもしれない。今回我々は、地域の異なる12ヶ所の引き伸ばし盆地の沈降史を解析した。また、本研究では、地域の違いをリソスフェアの厚さの違いとして取り扱った。その結果、次のことが明らかとなった。
(1)ほとんどのリソスフェアの厚さにおいて、観測される初期沈降量はM c K e n z i eモデルから得られるものより小さく、引き伸ばし量が大きいほどその差は大きくなる。したがって、引き伸ばし量が大きい時ほど、大きな浮力必要となることが分かる。今回我々は、スピネル-ガーネット相転移にこの浮力を求めた。実際、この相転移を考慮して、地中海リヨン湾やカナダ東部大陸縁辺域で観測されたM c K e n z i eモデルとのずれが系統的に説明されている(Yamasaki &Nakada,1997)。またスピネル-ガーネット転移の深さはリソスフェアの化学的状態に依存しており、大陸地殻の形成などにともなった玄武岩の抽出で、スピネルレルゾライトの存在範囲が高圧側へと拡張されることが分かっている。我々はこの性質に注目して、リソスフェアの厚さの異なる堆積盆地の沈降からスピネル-ガーネット転移の深さを推定した。その結果スピネル-ガーネット転移の深さは、厚いリソスフェアほど深くなることが分かった。このことは、厚いリソスフェアほど玄武岩成分に欠けていることを示唆しており、J o r d a n(1978)の玄武岩に欠乏したテクトスフェアモデルと調和的である。
(2)引き伸ばし量はリソスフェアが厚いほど小さいことが明らかとなった。M c K e n z i eモデルは引き伸ばし盆地の構造や沈降を説明することはできるが、引き伸ばしを引き起こす駆動力の起源や程度といったダイナミックな局面について何も与えてはくれないし、リソスフェアのレオロジーについての制約を与えてはくれない。モデルの本質が引き伸ばしにあるにもかかわらず、それについての記述はまったくされていない。引き伸ばし量は、沈降量や上でも述べた相境界の移動量を決める重要なパラメータの一つである。しかし、引き伸ばし量を決定しているものは何であるか?という問いに対する明確な答えはまだない。今回示すデータによると、比較的厚いリソスフェアでは引き伸ばし量が2以下に限定されているが、薄いリソスフェアになるにしたがいその値は大きくなっていく。リソスフェアのレオロジカルな構造はその熱的状態に強く依存しており、厚いリソスフェアにおける小さな引き伸ばし量は、リソスフェアの地温勾配の小ささに決められているのかもしれない。