1999年
地球惑星科学関連学会合同大会

1944年東南海、1946年南海地震に伴う変位・歪み・応力場の数値シミュレーション

吉岡 祥一

1 9 4 4年東南海、1 9 4 6年南海地震後の数十年間の変位・歪み・応力場を3次元粘弾性有限要素を用いてシミュレートした。フィリピン海プレートの3次元的な形状を考慮し、地震時のすべり分布、地震間のプレート間カップリングの空間分布を与え、これらの弾性・粘弾性応答を計算した。その結果、地震後の変位は地域ごとでかなりの差異が見られること、計算された歪み場は観測データとの一致がよいこと、1 9 4 5年三河地震の発生・和歌山での急激な地震活動の低下・四国東部での東西方向にP軸を持つ浅発地震の増加などは、東南海・南海地震によって励起された可能性があることなどが見いだされた。

はじめに
1 9 4 4年東南海(M 8.0)、1 9 4 6年南海地震(M 8.1)後、数十年間に亘って、これらの地震によってもたらされたと考えられる地球物理学的な観測事実がある。例えば、四国、紀伊半島における地震後のゆっくりとした地殻変動や、1 9 4 5年三河地震の発生、東南海地震直後の和歌山での急激な地震活動の低下、南海地震後の四国東部での東西方向にP軸を持つ浅発地震の増加などである。本研究では、これらの現象と東南海・南海地震との関連性を定量的に明らかにすることを目的として、数値シミュレーションを行ったので、その結果について報告する。

解析方法
解析には3次元粘弾性有限要素法(Hashimoto,1984;Yoshioka and Tokunaga,1998)を用いた。総要素数、総自由度数はそれぞれ、3 4 ,9 8 0、1 1 5 ,6 6 8個である。西南日本の水平距離600km ×4 5 0 k m、深さ1 5 0 k mまでを対象領域とし、フィリピン海プレートの複雑な3次元的形状(Mizoue,1977;Satake,1993)、南海トラフ軸方向のフィリピン海プレートの厚さの変化(吉岡・伊藤,1995)をモデルに取り入れた。陸側リソスフェア、フィリピン海プレートは完全弾性体、上部マントルはM a x w e l l粘弾性体と仮定した。また、東南海・南海地震時のすべり分布(S a g i y aand Thatcher,1999)、GPSデータのインヴァージョンから得られた地震間の期間のプレート間カップリングの空間分布(Ito et al.,1999)を与え、これらに対する弾性・粘弾性応答を計算した。

結果
まず、東南海・南海地震時のすべり分布を与え、地震時の地表変位・主歪みを計算した。その結果、南東方向の水平変位、室戸岬沖での隆起・四国の須崎での沈下の変位パターンと北西−南東から北北西−南南東方向の伸張の主歪みのパターンが得られた。これらは、地震時に観測された地殻変動のパターンとよく一致しており、地震時のすべり分布のインヴァージョンの結果と本モデルの弾性解析の妥当性を裏付けている。次に、このすべり分布に対する粘弾性応答を計算し、地震後30年間の地表変位を計算した。それは、地震時と逆向きの北西方向の水平変位と室戸岬沖の隆起、足摺岬付近での沈降で特徴づけられる。上下変動の大きさは地震時の地表変位の大きさの半分程度に達しており、粘弾性による影響は地震後の地殻変動を考える上で無視し得ない要素であることを示唆している。一方、プレート間カップリングの空間分布は時間変化しないものと仮定して、それによる3 0年間の地表変位を計算した。その結果、粘弾性によるものよりもやや大きな数十c mの北西方向の水平変位と数c m程度の足摺岬・室戸岬・潮岬での沈降、その後背域での隆起という沈み込みに特徴的な空間パターンを示した。これら、2つの要素を足し合わせた粘弾性応答とプレート間カップリングによる地震後30年間の地表変位は、室戸岬で北西方向に1 m程度の変位を、足摺岬で4 0 c m程度の沈降を示しており、南海トラフに直交するプロファイルでの変位のパターンは地域ごとにかなり異なることが予想される。しかしながら、このモデルでは観測で見られた四国北東部での沈降や南西部での隆起を説明することができず、地震時のすべり領域の周辺での地震後のゆっくりしたすべりなどを考慮する必要がある。粘弾性応答とプレート間カップリングによる地震後30年間の主歪みのパターンは、両者とも1 0 **-5程度の大きさの北西−南東から北北西−南南東方向の圧縮で特徴づけられ、両者を合わせたものは観測と比較的よく一致していた。