特集 電磁気学と現代物理学―マクスウェル方程式がひらく様々な道

数理科学 2001 年 5 月号
加藤正昭ほか著
サイエンス社
名大生協で購入
読了日:2001/05/02
今年後期には2年生相手に電磁気学を教えないと いけないということがあって、ネタ探しも兼ねて読んでみた。 電磁気学の歴史から始まって、電磁気学が相対論、量子論への道を 開いたこと、それから、ゲージ理論を通して統一理論まで関わって いることを概観している。後ろの方の統一理論の話は難しくて 良く分からなかった(とくに牟田・向川の執筆部分は、私のような 素人には筋さえ追えない)。でも、特集全体を通して、電磁気学の 物理学の中での位置づけが雰囲気的にわかって良かった。

電磁気学の歴史に関しては、豆知識的に参考になることが多かった。 それをいくつかここにメモしておく。

いわゆる「アンペールの法則」

rot B = μJ
は 1930 年頃以降の呼び誤り。正しい「アンペールの法則」は 電流要素間の力の法則で、しかも現在の形とは違って 中心力になっている。上式の形を導いたのは、実は Maxwell。
[太田浩一「マクスウェルは世界を変えた」の pp.9-11]

いわゆる「マクスウェル方程式」は Maxwell が導いたものではない。 Maxwell が書いたのは、12個もの複雑な式で、ポテンシャルと電場・磁場が 混ざって出てきている。それは Maxwell にとっては、ポテンシャルは、 モデルに基づく具体的な描像を持つものだったからである。現在の 4個の式からなる「マクスウェル方程式」を導いたのは、Heaviside と Hertz である。したがって、それは Maxwell-Heaviside-Hertz 方程式と 呼ぶのが歴史的には妥当である。
[太田浩一「マクスウェルは世界を変えた」の pp.13-15、 加藤正昭「古典から量子へ」の p.35]

ローレンス(Lorenz)条件

c^{-2} ∂tφ + div A = 0
を登場させた Lorenz は、ローレンツ(Lorentz)変換の Lorentz とは別人。
[太田浩一「マクスウェルは世界を変えた」の pp.16-17]

また、最近出た以下の教科書が良いらしい。

太田浩一「電磁気学I,II」丸善 (2000)
内容が豊富。歴史的な事柄に正確さを期している。
J.D. Jackson「Classical Electrodynamics, 3rd ed.」John Wiley & Sons (1998)
決定版として定評のある教科書の最新版。
牟田泰三「電磁力学(岩波講座現代の物理学2)」岩波書店 (1992)
電磁場のゲージ理論をきちんと書いてある。