武田邦彦「リサイクル幻想」
文春新書 131、文藝春秋
刊行:2000/10/20
名古屋一社駅前の文京堂書店で購入
読了日:たぶん 2000 年末
加藤三郎は、元環境庁の役人で、その後、NPO「環境文明21」の代表。 その経歴にふさわしくというべきか、(K)では、日本のリサイクルの 現状と考え方を平易に解説している。最近リサイクル関連法がいろいろ できていることをこれで初めて知った。それらを並べておくと、
一方で、(T)は、「リサイクルしてはいけない」と説く。 たとえば、紙やプラスチックは、燃やしてしまって、 発電と熱生成(コジェネレーション)に使ってしまうのが良いとする。
いずれの本も、もちろん環境に負荷の少ない道を探ろうとしているのに、 このように考え方に大きな隔たりが出てしまうのは、環境問題の難しさを ものがたっている。何が正しいかを見定めるためには、物質とエネルギーの 循環の全システムを考えて、定量的に価値判断をする、ということが 不可欠である。リサイクルにかかる費用で判断するというのは、 一つの手ではある。しかし、金はこういう問題の価値判断に対しては、 あまり良い指標でない。
判断や評価を下すには、これらの一般向けの本だけでは、いかんせん情報が 少なすぎる。たとえば、ゴミ発電問題にしても、現状ではゴミの量が 安定しないために、安定した電力供給ができないなどの問題があると聞くが、 (T)ではそれに触れられていない。また、(K)では、全体的なシステムに 関する記述が少ない。
昨日、国立環境研究所の森口祐一氏の MFA (Material Flow Analysis) や LCA (Life Cycle Assessment) の講演を聞いた。その中で、武田氏が 以前に書いた本「リサイクルしてはいけない」に関する話題も出てきた。 この武田氏の主張には問題があるとのこと。やはり、LCA のような 定量的分析をしてみて初めて「リサイクルしてはいけない」のかどうか わかるのであって、上の本のような定性的な話に終始していては、 リサイクルが良いとも悪いとも両方の議論ができてしまう。 むろん、やみくもにリサイクルしてはいけない場合も確かにあるが、 それがすべてではない。その点で、やはり(T)や(K)のような ごく一般向の薄い本では、リサイクルの本質がなかなかつかめない、 ということを改めて感じた。