平野弘道「繰り返す大量絶滅」
地球を丸ごと考える 7, 岩波書店
刊行:1993/09/10
学科からの転出者より譲渡
読了日:2001/05/20
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隕石衝突を絶滅の原因とするかどうかに関する態度が、著者の スタンスを如実に示していておもしろい。(H)の態度は、おそらく 多くの古生物学者の平均的なものであろう。K/T に関しては 隕石衝突を否定しないものの、その他の絶滅については隕石衝突に対して 否定的であり、K/T についてさえもむしろ気候の寒冷化を重要視している。 これに対して、(R)は次のような鋭い指摘をする。
大量絶滅の原因に関して ...(中略)...次にあげる五つの説(順不同) に関しては、大半の同僚が、重要な候補として同意するのではないかと思う。そして、第10章は「すべての絶滅が隕石の衝突で引き起こされた可能性」と 題し、(大量絶滅に限らない)すべての絶滅が隕石の衝突で引き起こされた 可能性まで議論している。また、寒冷化に関していえば、更新世の寒冷化 (つまりは氷河期の到来)が、大きな絶滅を引き起こさなかったということから、 大量絶滅の原因としては否定的に見ている。
- 気候の変化、それも特に寒冷化と乾燥化
- 海水準の上昇や下降
- 補食
- 疫病(一種の補食といえなくもない)
- 多種との競争 ここでは、彗星ないし小惑星の衝突が環境にもたらした影響は、あえて除外した。 ここであげた五項目は、いずれも有力な候補である。しかし私は、ここにも 擬人観が色濃く投影されていると思う。人々が日々の生活で気にかけている 心配ごとといえば何だろう。気候、それも特に寒さと水不足、海水準 (洪水、川や湖が干上がること)、野性動物(昆虫を含む)の襲来とか 他国や他人の襲撃、競争(個人間や国どうしの競争)といったところがすぐに あげられる。そう、絶滅の原因とおぼしき候補のリストは、単にわれわれ 個人を脅かす要因をリストアップしたものにすぎないのではないだろうか。 征服、戦争、飢饉、疫病を象徴する黙示録の四騎士を思い起こしていただきたい。 [第6章より]
もっとも、一方で、最大の大量絶滅である P/T 境界には隕石衝突の 痕跡が全くないことは事実らしいので(e.g. 磯崎、合同学会 2001)、 絶滅を隕石ばかりのせいにするのは誤りらしい。といって、 この本(R)では、べつに隕石がすべての絶滅の原因だと 断じているわけでもなく、この本の価値が減ずるわけではない。
最初の問い「遺伝子が悪いのか、運が悪いのか」に対する Raup の答えは、
遺伝子の悪さと運の悪さが重なって絶滅に至ることは明白である。 [第11章より]であり、その場合、遺伝子が悪いという意味は、次の通り。
<理不尽な絶滅>ある種類の生物が生き残りやすいという意味では 選択的な絶滅なのだが、通常の生息環境により良く適応しているから 生き残りやすいと言うわけではない絶滅 [第11章より]