田中清玄自伝

インタビュー:大須賀瑞夫
文藝春秋
刊行:1993/09/10
名古屋桜山の古本屋で購入
読了日:2001/05/01

戦前は、武装共産党の書記長、その後、転向して、 反共の天皇制支持者になった田中清玄が、生涯を回顧するインタビュー。 左翼からの転向者には右翼ベッタリになってしまう人も多いが、 田中の場合は、それとは違って信念を持っているからおもしろい。 戦後も、岸信介・児玉誉士夫の策動に抵抗して、全学連に資金援助をしてみたり、 エネルギー問題が重要だと見るや、日本が中東から石油を輸入するためのルートを 開拓したりと、日本のために八面六臂の活躍をする。

田中は、これからは環境問題が大事だと言っている。 その関係で何カ所か引用しておこう。

しかし、実際のところ油はもう限界です。埋蔵量に限界があるし、 大気を汚染する。地球温暖化の問題もある。だから太陽エネルギーに 切り替えるべきなんです。私はそのことを石油危機以来ずっと 主張してきたのです。この二十年間、その研究を日本や欧米の各会社が 本気でやっていたら、多分、湾岸戦争なんか起きなかったでしょうな。 これは世界の指導階級の重大な過失ですよ。(pp.241-242)
こんにち地球環境が大事だっていって騒いでいますが、日本が つんのめっていき始めたころだから、まだ昭和三十年代だと思うけど、 松永の爺さんが俺に「消費が美徳だなんて馬鹿なことをいう者がいる。 お前、気をつけろ」って言ったことがある。あの人は電力の鬼と言われたけど、 水一滴が財産だともいっている。本当の経済人というものは、資源を大事にし、 エネルギーを大事にし、地球を愛して、無駄な散財はしないものですよ。(p.305)
さらにもっと差し迫った問題は、この地球環境をどうやって守っていくかです。 九二年には地球環境を考える環境サミットがブラジルで開かれましたが、 アメリカも日本も会議が終わった途端、きれいさっぱり忘れたように、ただの 一人も地球環境なんて言わなくなってしまった。竹下が名乗りをあげたが、 あんなものゼニ儲けと票欲しさだけだ。そんなことは最初から分かっていた。 しかもアメリカはブッシュが当初の姿勢を大きく後退させてしまったものだから、 アメリカ追随の日本は、もうだれも何も言わないというわけだ。そんな いいかげんなものに頼るわけにはいかない。(pp.360-361)