総力特集 テロ・報復、漂流する日本

文藝春秋 2001 年 11 月号
名大生協で購入
読了日:2001/10/18
米国テロ問題、および最近の不況問題に関する、以下の論説集。
  1. 米国テロ問題
  2. 不況問題

以下、私が興味深く読んだ部分についてまとめる。

(TT) では、テロの背景について述べられている。興味深かった点は次の3つ。 (1)自爆テロの源流が日本赤軍にあるという指摘(2)イスラム諸国から 見れば、十字軍を今でも許すことができないという点(3)ブッシュ外交が ガキ大将の論理だという指摘、である。

(1)については、日本赤軍のテルアビブ(ロッド)空港乱射事件 という特攻作戦がアラブ人に衝撃を与えたことが記され、 それが後に90年代に入って「聖戦(ジハード)」という概念と結合して 自爆テロが増えたと語られる。日本赤軍の考え方については、重信房子の 著書「わが愛わが革命」が引用される。

真の死に方、真に革命的な死に方とは何か。自分が死ぬことを避けて通っている限り、 殺すことは間違いである。殺すということは、自分の死を代償とする以外には あり得ないのである。そのことを、日本の仲間たちはわかっていない。
(2)については「アラブが見た十字軍」という歴史書が引用される。
二日後、城壁内にムスリムの者は一人もいなかった。(中略)脱出した者も わずかながらいたが、他は何千という死体となって家の戸口や寺院の周辺に できた血の海の中に投げ出されていた。
イスラム諸国においては、十字架は悪のシンボルであり、国際赤十字もないそうだ。 あるのは「国際赤三日月」だ。(3)については、以下のように書かれている。
ブッシュ外交が事件後最大の努力を傾注してきた国際共同行動体制作りの基本 戦略は、一言でいえば、お前はオレの敵か味方かハッキリさせろの一語につきる。 「お前はオレの味方か?そうでなければテロリストの味方とみなす」という 「味方でなければ敵」の論理である。この論理で、世界中の国から最大限の 行動上のコミットメントを求めるというやり方をつらぬいてきた。いってみれば、 それはガキ大将のやり方そのものである。

(NH) では、アメリカ政府内の事情、石油や麻薬に関する利権の問題などが 対談されている。

(TR) では、NHK ワシントン支局長が体験したテロ当時の様子が語られる。

(EK) では、テロに対する対応の困難さが説明されている。

(21C) では、イスラムの主なテロリストグループが紹介されている。

(TS) では、米国テロの首謀者とされるビン・ラディンの経歴が紹介される。

(MO) では、イスラムの立場から見た米国同時多発テロ事件が語られる。 穏当な考え方だろうと思う。(MO) は、米国テロ事件もジハード(聖戦)では ないと考えているし、タリバーンに対する批判もある。アメリカの イスラエルに対する態度は批判されている。

(FK) では、米国テロ事件を21世紀の始まりと見る。(FK) は、第一次 世界大戦を20世紀の始まりと見ており、その対比が興味深い。

今回、攻撃の対象となったのは、アメリカのグローバルなネットワークでした。

第一次世界大戦もまた、イギリスのグローバル戦略の行きづまりに起因するものです。 (中略)

興味深いのは、第一次世界大戦後の国際政治は、世界が一つになったことで 不安定化した秩序をいかに区分して安定化させるか、ということを巡って 進められたということです。(中略)

結局、第一次世界大戦が目指していた世界の分割が安定した形をとったのは、 第二次世界大戦後の冷戦によってでした。(中略)

いずれにしろ、新世紀の戦争もまた、現在の不安定なグローバル体制から 抜け出すために戦われることになる。その戦いは難航をきわめるでしょうが、 おそらく世界の「再分割」をへないで二十一世紀の世界が再び安定にいたることは ありえません。

(SE) では、世界経済の先行きがあまり明るくないことが語られる。 構造改革への期待で結ばれている。

(SMKU) では、テレビにも良く出る評論家諸氏が自説を展開している。 テレビで聞くより深い話はないから、結局よくわからない。

(TY) では、90年代のアメリカの繁栄の歪みをまとめている。 現在、世界同時不況になりそうな理由が3つ挙げられる。 第一は、対外不均衡の調整がうまく行かないことである。 アメリカは金を使うから大変な経常赤字だが、しかし それを減らそうとすると、他の国の景気が悪くなる。 第二は、IT 神話が崩壊したこと。第三は、為替レートが、 株価や利下げなどに思ったように反応しないことである。 結局、これまでのアメリカの自分勝手な政策のツケが 回ってきているわけである。(TY) は、 これからグローバル・デフレと世界経済の混迷がやってくることを 予想する。

(NU) では、果断でスピーディな企業経営が説かれている。

(K01) では、現在の日本の失業対策が、まずいということが 説明されている。

(WY) では、独自の不況対策が説かれる。しかし、素人目で見ると、 政治家の文だからか、「○○をやります」という政治広告の延長に しか見えない。だいたいこういうことは縦書きの文ではきちんと 議論できないものではないだろうか。全体のシステムの問題やら 歴史的な背景やら数字的な問題やらをきちんと議論していないので (長さの制約があるのだろうが)、私のような素人には 何ともわからない。