フラミンゴの微笑―進化論の現在―

Stephen Jay Gould著、新妻昭夫訳
原題:The Flamingo's Smile
ハヤカワ文庫NF 267, 268、早川書房
刊行:2002/05/31
文庫の元になったもの:1989/12 早川書房刊
原著刊行:1985, W. W. Norton & Company
名大生協で購入
読了日:2002/12/16
一般向け講演をするための心の準備第三弾と言おうか、その準備をするときの 逃避行動というか、一気に読んでしまった。いつもながら、グールドの 極上のエッセイである。こんな手のかかる文章を毎月書きながら研究が 出来る人がいる、というのは全く信じがたいことである。

扱っている題材は、いつものように進化論をめぐるもので、 社会問題を扱うときはいつものように非常にリベラルな姿勢が貫かれている。 小天体による絶滅やエディアカラ動物群など古生物学最先端(もちろん これは書かれたときの最先端で、今となってはちょっと古いと言えるかもしれない) の話があると同時に、大リーグの4割打者がいなくなる理由に関する考察が あったりする。一方で、ダーウィンが進化論に目覚めたのはビーグル号の 航海中ではないという科学史の論証があり、他方で、トウモロコシと ブタモロコシの間の関係という植物の形態と系統に関係する話があったりする。 それらのどれもが進化という大きな問題のまわりに関係付けられて 論じられている。

ずっとその前のエッセイ集も読んでいると、基本的な題材の種類は 全く変わっていないことがわかるのだが、常に新しい題材を使って 飽きさせないようになっている。先頃、残念なことにグールドは 亡くなってしまったが、私はまだ読んでいないエッセイが たくさんあるので、当分楽しめそうである。