惑星学が解いた宇宙の謎

井田茂著
新書y 063、洋泉社
刊行:2002/05/23
名大生協で購入
読了日:2002/12/03

近いうちに一般向けの講演をする機会ができてしまったので、 周辺分野の最新の話でも軽く眺めておこうかと思って読んでみた。 読み始めてみると、最新の成果が明快に要領よくまとめてあるので、 数日で読み終えてしまった。難しい数式もなく、著者の経験も 適度に交えつつ書いてあるので読みやすい。

私も大学院生の頃は、この著者の井田さんもいた研究室のセミナーに 出入りしたりして、惑星科学をけっこう良く勉強していた。 しかし、それから10年くらい、あまりちゃんとフォローして いなかったので、断片的な情報しか知らなかった。 その間の進展のエッセンスがまとまってわかりやすく書かれていて 勉強になる。

最近10年の進展として重要なものには以下のようなことがある。

系外惑星系の発見とそれに伴う理論と観測の進展
1995 年に太陽系以外の惑星系が発見され、一挙に惑星科学業界が 活気付いた。木星のような巨大惑星が中心の恒星のごく近くを まわっているという惑星系がたくさん発見されて、そういったものが どうやってできるのかとか、その位置づけをめぐって現在華やかに 研究が進められている。
著者の井田さんのグループによる月形成の理論
月はジャイアントインパクト(巨大衝突)によってできたという考え方が 現在は主流である。そういう巨大衝突があると、衝突後、 1か月から1年くらいの短い間に必然的に月ができてしまうことが 井田さんのグループによって明らかにされた。 井田さんは10年前は巨大衝突説には懐疑的であったことを知っているが、 それが変わったいきさつも書かれている。
多くのエッジワース・カイパーベルト天体 (EKO) の発見
海王星の外側に、小天体がたくさん見つかり、それが EKO と呼ばれる。 冥王星も実は EKO の一種と考えられる。それが海王星の起源に 関係あることが解説されている。
著者の井田さんのグループによる惑星成長の寡占的成長の理論
微惑星は衝突によって大きくなりやがて惑星になるのだが、 それが2段階で起こることが示された。第一段階では、大きい微惑星が ますます大きくなるという「暴走成長」のプロセスにより、 原始惑星ができる。地球領域では、その大きさは地球の1/10 程度である。それらが「引力が届く距離」ごとに並ぶ。 第二段階では、それらの原始惑星が巨大な衝突をしあって、 地球のような惑星ができる。