発想法

川喜田二郎著
中公新書 136, 中央公論社
刊行:1967/06/26[初版](読んだのは 57 版:1986/03/25)
名古屋本山の古本屋で購入
読了日:2002/05/13

著者が開発した KJ 法とその考え方の紹介。往年のベストセラーで、 本の存在と KJ 法のあらましは知っていたが、読んだことがなかった。

要点をまとめると、次のような手順で、研究やら会議やらを進めてゆけ、という 教えである。

  1. 野外調査やブレーンストーミングなどによって、できるだけ多くの情報を 収集する。
  2. 収集した情報をカードなどにまとめる。
  3. カードを、近縁のものからまとめてグループ化してゆく。グループ化は 「小グループ→大グループ」という順番に行い、先入観を入れず、 出来る限りデータに語らせる。
  4. グループ化したものの相互関係を図解する (KJ 法 A 型)。 このときは、大分類から小分類へと全体のつながりを明らかに するように配置する。
  5. 図解したものから文章に起こす (KJ 法 B 型)。
  6. 問題解決の効率の良い手順をまとめる (PERT 法)。
とくに、図解と文章化ということを通じて、ものごとを整理できて 同時に新たな発想が生まれてくる、というのが要点である。

1年生用の基礎セミナーで実践してみると良いのではないかと思って やってみたが、私の説明不足でやや失敗した。私も自分でやってみたが、 なかなか分類に迷うところがあって難しい。KY 氏(学生) 曰く 「KJ 法はえいやと思いきって分類してみるところが良い所ですよ」 むべなるかな。とはいえ、分類してみるのは時間はかかるが、 けっこう楽しめることは確かである。1年生は、私の説明不足もあり、 面倒くさがっていたようであるが。

KY 氏 (学生) によると、立花隆氏は、KJ 法は非効率的であると批判して いるのだそうな。まあ、確かにいちいち紙に書くのは時間がかかる。 慣れた人なら頭の中で全部やってしまうであろう。ただ、川喜田氏は とくにグループで仕事をする場合を想定しているわけで、そういう ときは、お互いの認識を確かめ合うため、あるいはお互いに意見を 述べ合うために KJ 法のような道具立ては有効なのであろう。 何か別の機会があれば、もう少し試してみようかと思う。

ただ、この本の思想は、少し薄い感じがする。気付いたことを3つ挙げる。 (1) 著者の発想法が abduction であると言っているが、Pierce の abduction と著者が書いていることとは違う。著者は Pierce を読んで いないのではないか。(2) カードの分類のところで、 先入観にとらわれずにデータに語らせる、ということが書いてある。 ところが、一方で、科学哲学では、先入観(理論)がゼロでは ものごとが何も見えないことが明らかになっている。 このへんの関係は著者は何も意識していないようである。 (3) しばしば、「日本人は」「外国人は」「男性は」「女性は」 という民族をステレオタイプ化する言葉が出てくる。この手の ステレオタイプ化は底が浅いことが多いので、私は好きではない。 もっとも、著者は文化人類学者だから、根拠が十分にあるのかもしれないが。