24人のビリーミリガン―ある多重人格者の記録―

Daniel Keyes 著、堀内静子訳
原題:The Minds of Billy Millligan
早川書房
刊行:1992/08/31(原著は 1981, 82)
原出版社:William Morris Agency, Inc.
名古屋黒川の古本屋 BOOK OFF で購入
読了日:2002/03/05

だいぶん前のベストセラーで、古本屋では今やかなり安く売っている。 読みたいと思っていたので買ってみた。思った通り、非常に面白い。

レイプを犯した多重人格者であるビリー・ミリガンを記録した ノンフィクション。ビリー・ミリガンは、子供の時の虐待により 24人に分裂している。事実が小説よりも奇だという良い例で、 小説とすると24というのはいかにも多すぎる。人格が分裂して いるために、ビリーがさまざまな苦しみを味わってきたことが 強烈に伝わる。他の人格が何をしたかの記憶がないことが一番の 問題で、そのために他人から見ると嘘つきに見えたり、行動に 脈絡がなくなったりする。24の人格はひどく個性的で、 ある者は子供、ある者は青年、ある者は男で、ある者は女、 ある者はイギリス訛りで話し、あるものはスラブ訛りで話す (もちろん本人はアメリカ人)、といった具合いである。

この本は3部構成になっている。第1部が、ビリーが逮捕される ところから、裁判と治療を経て、統一された人格<教師>が現れるまで。 第2部が、生い立ちからレイプを犯すまで。第3部では、ビリーが 治療で快方に向かいつつあったにも関わらず、地元の新聞や政治家が 「犯罪者を街に出すのは怪しからん」と煽ったため、 ビリーが多重人格に全く理解のない牢獄のような精神病院に送られるまで が描かれる。最後には、統一されつつあった人格がまた分裂してしまう。

このような終わり方をするのは、著者がビリーに対する扱いを 告発するためのものであろう。この本がもともと出版されたのは ビリーが精神病院でひどい目に遭っていたときである。 後日譚も本になっていて、それによると、ビリー自身の戦いや周囲の 支援などで、最後にはビリーはまともな治療をうけ、人格は統一され、 自由を勝ち取るようである。

犯罪被害者の苦しみもあるだろうが、ビリーの苦しみもまた大きな ものであることが、読むと良く分かる。元はと言えば、子供の時の 虐待が問題ということである。

物事の展開もいかにもアメリカらしい。多重人格者を積極的にかばう リベラルな人も多いのに対して、全く無理解なウルトラ保守も多い。 そこで、激しい闘いが起こることになる。日本だと、何ごとも マイルドになりがちで、どっちつかずになることが多い。 時々スズキムネオのように声が大きい人がいると、その 穏便なシステムが破壊される。