英辞郎
道端秀樹 監修, Electronic Dictionary Project 製作
松岡一郎 取材・文, 白川雅敏 / K's Factory 編集
アルク
刊行:2002/03/12
名大生協で購入
読了日:2002/10/19
非常に特徴のあるオンライン辞書 (CD-ROM) とその紹介(本)。
これは、利用者や編集メンバーがことばを提供し、編集メンバーが
取捨選択していくという方法で作られている「開かれた」辞書である。
作られ方からして、新語や俗語が豊富なのが特色の一つ。
100 万語突破記念でこのような本にしたとのこと。本の内容は、
英辞郎が作られている経緯とその特色の紹介である。
軽い雑誌記事風の文章でどういう辞書かが紹介されている。
100 万語といっても複数の単語をつないだ複合語も勘定に入っているよう
だから、数だけでどうこういうものではない。
少し使ってみた感じでは、普通の辞書とは相補的な関係にあって、英辞郎だけで
すべて済むというわけでもないが、非常に良い点もある。英語学習のためには
普通の辞書と組み合わせて使っていくのが良いと思う。特色を幾つか挙げよう。
- フリーの辞書ソフトを利用していて、それを使うと、たとえば web ページを
見ながら分からない単語(熟語)を選択して cntl+c と押すと、意味が
ただちに現れる。これは、web ページなどを速く読むのには非常に都合がよい。
- 上のことに関連するが、普通の辞書だと「用例」にしてあるコロケーションの類が
すべて見出し語になっているので、慣用表現をまとめて検索するのに便利。
反面、単語が意味のまとまりで出てこなかったりすることが多いので、
「読む」辞書ではない。第一義的には「使う」辞書である。
- 単語の集め方や編集方針からして自然だが、説明や単語の収集にムラがある。
これは利用者の意見とともに徐々に改善されるのだろう。
最近出会った言葉で「英辞郎」とその他のいくつかの辞書の比較をしてみる。
以下でわかるように、「英辞郎」は普通の辞書よりもムラが多い。最近良く使われる
単語とか、普通の辞書だとちょっと不親切だったり載っていなかったり、
という単語の説明が詳しい。考えてみればそれはあたりまえで、普通の辞書で
足りないところを補うというのが目的で作られているから、普通の辞書に
載っているような単語の説明はおざなりだったりする。
専門用語のレベルは、ものによってまちまち。
もっともこうして文句を言う代わりに、「英辞郎」にメールで情報を
送ってあげるのが良いのだろうが。
- ふつうの単語での比較
- away (副詞)
- 「英辞郎」では、副詞としては、5つの意味が載っている。例文はない
(コロケーションは見出し語レベルでというのが「英辞郎」の方針)。
「休まずに続けて」という意味が載っていないが、コロケーション
として、talk away, gossip away happily といった見出しの下で
いろいろ載っている。
- 「小学館 Progressive」「リーダーズ英和」などの英和辞典では、
意味を7つくらいに分けてあって、例文もある。
「休まずに続けて」という意味も載っている。
- wet blanket
- 「英辞郎」では、「座をしらけさせる人、...」と始まり、訳語も多く、
語源、用例もしっかり書いてあって親切。
- 「小学館 Progressive」は「座をしらけさせる人[物]」という訳語のみ。
- 「Oxford Idioms」は熟語の専門辞書だけあり、意味、語源、用例とも
簡潔にきちんと書いてある。
- slang での比較
- work one's ass off
- 「英辞郎」には、ちゃんと、「猛烈に働く、...」という意味が出ている。
- 普通の辞書には、下品すぎるのででていない。
- 「Cassell Slang」には、もちろん to work extremely hard
と説明してある。
- 環境用語での比較
- sustainable
- 「英辞郎」では、「継続維持できる、もちこたえられる、...」の他に
「環境を壊さず利用可能な、地球にやさしい」という訳が出ている。
この後者の訳は意訳のしすぎかも?
- 「リーダーズ英和」は比較的親切。「支持できる、...」の他に
「<開発・農業などが>資源を維持できる方法の、持続可能な;
<社会などが>持続可能な方法を採用する生活様式の」という
環境用語が載っている。
- 「Collins Cobuild」も丁寧で、2つ意味が載っていて環境用語の方は
You use sustainable to describe the use of natural resources
when this use is kept at a steady level that is not likely to damage
the environment. とある。
- 「Concise Oxford Dictionary」は全く環境のことが意識されておらず、
単に able to be sustained とあるのみ。
- 地学用語での比較
- mantle plume
- 「英辞郎」では、「マントル・プルーム」とだけあって、
その概念の説明がないのが不親切。
- 「リーダーズ英和」では、「マントルプルーム((マントル深部から
生じるマグマの上昇流))」とある。
大体良いが、マグマというのは誤り。
- 「Concise Oxford Dictionary」では、plume の項に記述があり、
a column of magma rising by convection in the earth's mantle
とある。やはり magma というのが誤り。
- 「小学館 Progressive」には記載がない。
- talus
- 「英辞郎」では、talus cone, talus slope が「崖錐」と書いてあるが、
talus そのものに「崖錐」と書いていない。
- 「リーダーズ英和」は親切で、
「崖錐((崖下にくずれ落ちた岩屑の堆積))」とある。
- 「小学館 Progressive」は「崖錐」とのみあって、概念の説明がなく、
不親切。
- 普通の辞書にもないが「英辞郎」にもやっぱりなかったもの
- vibrioid
- 細菌の形状で、3次元的に曲がっているが、
1回りはしていないようなもの、の意味。
論文に載っていて、web で検索して意味を見つけた。
- job sculpting
- NHK ラジオ講座「ビジネス英会話」で紹介されていた新語。
できる社員がやる気を出すように、
興味を持つ仕事を見極めて、それに見合った具体的な職務を与えてゆくこと。
オンライン辞書は
アルクホームページ
に置いてある。