読後感が比較的爽やかなのも特徴の一つ。ミステリーの中には読後感が 気持ち悪いものがあるが、これにはそういうことがない。それには2つの 仕掛けがある。ひとつは、幸山荘事件という殺人事件を、過去のものにして 現在と切り離している点がある。もうひとつは、村下猛蔵を 同情の余地がないほどの極悪人にしておいて、最後に彼が死ぬという 勧善懲悪の物語に作り、しかも最後の殺し方を半分自殺のような自業自得の 死にしている点がある。
無論、人間の描写も鮮やかにできている。たとえば、主人公の一人が勤めている 「ネバーランド」という電話相談室のようなところのチーフが語る言葉
「ネバーランド」にいる我々は、あくまでも擬似友人なのです。ここへ 電話してくる人たちというのは、非常に寂しがり屋ではあるが、反面、非常に ガードも固い人たちなのです。寂しいけれど、友達をつくることによって 起こってくる面倒は引き受けたくないから、他人とじかに接触することによって 起こるトラブルが嫌だから、電話で声しか聞くことのできない我々を求めてくるのです。この述べられていることが取材に基づく事実かどうかはわからないが、とりあえず なるほどと思わせる。
(中略)
ですから「ネバーランド」の常連客というのは、孤独で引っ込み思案であると同時に、 とても身勝手な人たちであると考えてさしつかえありません。