レベル7

宮部みゆき著
新潮文庫 み 22 2、新潮社
刊行:1993/09/25
文庫の元になったもの:1990/09 新潮社刊
名大に廃棄してあったものを拾った
読了日:2002/11/07
推理小説、というよりは一級のエンターテインメント。 文庫本にして 650 ページ余りの大部の小説を、船酔いで気持ち悪いと 思っているときに(私は今船に乗っている)、2日間で読破させるだけの きびきびしたプロットの展開がある。記憶喪失事件と失踪事件というのが 表に発生する2つの事件。その裏に、極悪人である村下猛蔵に関わる 3つのことがら、すなわち、幸(さいわい)山荘事件という過去の殺人事件、 新日本ホテル火災(ホテルニュージャパン火災を下敷きにしている)、 潟戸友愛病院という精神病院の悪徳経営、があって、それらが最後には 1つに収斂してゆくという展開は非常に巧みで、読んでいて取ってつけた 感じがしない。

読後感が比較的爽やかなのも特徴の一つ。ミステリーの中には読後感が 気持ち悪いものがあるが、これにはそういうことがない。それには2つの 仕掛けがある。ひとつは、幸山荘事件という殺人事件を、過去のものにして 現在と切り離している点がある。もうひとつは、村下猛蔵を 同情の余地がないほどの極悪人にしておいて、最後に彼が死ぬという 勧善懲悪の物語に作り、しかも最後の殺し方を半分自殺のような自業自得の 死にしている点がある。

無論、人間の描写も鮮やかにできている。たとえば、主人公の一人が勤めている 「ネバーランド」という電話相談室のようなところのチーフが語る言葉

「ネバーランド」にいる我々は、あくまでも擬似友人なのです。ここへ 電話してくる人たちというのは、非常に寂しがり屋ではあるが、反面、非常に ガードも固い人たちなのです。寂しいけれど、友達をつくることによって 起こってくる面倒は引き受けたくないから、他人とじかに接触することによって 起こるトラブルが嫌だから、電話で声しか聞くことのできない我々を求めてくるのです。
(中略)
ですから「ネバーランド」の常連客というのは、孤独で引っ込み思案であると同時に、 とても身勝手な人たちであると考えてさしつかえありません。
この述べられていることが取材に基づく事実かどうかはわからないが、とりあえず なるほどと思わせる。