光と風景の物理

佐藤文隆著
岩波講座 物理の世界 宇宙と地球の物理1、岩波書店
刊行:2002/08/21
名大生協にて購入
読了日:2002/11/08

全般

宇宙物理の泰斗が地球について何を書くのかと思ったら、何と視環境の話。 これはたしかに地球物理屋の盲点のようなものだ。地球物理でも 放射の専門家はいるのだが、エネルギー輸送という側面から見ているので、 視環境とはまたちょっと違う。視環境という意味では、星を見ている 天文屋の方が地球物理屋よりも詳しい意味があるということで、たしかに なるほどという題材の選択だ。地球の物理ではあるが、地球物理屋が あまり扱わない題材は他にもいろいろあるのだろうか?

最後の章では、視環境の物理的側面と、風景という意識とのかかわりについて エッセイ風に語られている。見るということは、単なる物理的過程ではなく、 我々のものに対する感性にも関わっているということを改めて思い起こさせる。

いろいろ興味深いことがかかれていて、勉強になるのだが、 後にメモするような推敲不足によって読みにくい点が散見されるのが残念なところ。


内容のサマリー

内容の多少偏ったサマリー

序章:空気中での視界

第1章:光環境と視覚

第2章:大気中の水とちり

第3章:レイリー散乱とミー散乱

第4章:大気中の光環境


気付いた点

この本の多少の欠点は、若干推敲不足なのではないかと思える点があることで、 ちょっと論理が飛んだり説明不足だったり、記号の不統一があったりするところが 散見される。そういったことを含め気付いた点のうちいくつかを以下に記しておく。

p.19 生物による炭素の固定化

大気に炭素がほとんどなくなっているのを光合成による炭素固定によるとしているが これは正しくない。まず、地表付近の炭素の存在度は宇宙存在度よりも少なく、 これは、おそらくコアに行ったものと考えられている。さらに、大気に二酸化炭素が ないのは、主として炭酸塩として固定されているもので、有機炭素はそれにくらべれば 少ない。また、炭酸塩の固定は現在では生物活動によるものが多いが、こういう話で 重要な非常に古い時代では無機的か有機的かよくわからない。

また、その説明のすぐ下で、「図3.2 で x〜1」とあるが、正確には、図3.2 には ρという量しかなくて、x が何であるかは、図3.2 の近くの本文を読まないとわからない。 これは不親切。

2.5 水滴の成長

p.27 (2.6) の下の文中の R/\dot{R} の式は頭に 1/3 が抜けている。また ρ\infty>>ρ の近似をしていることが書かれていない。

2.7 雲はなぜ落ちない

p.40 分子の平均衝突距離の登場の仕方が唐突。

p.41 下から 8 行目 「上空の大気にある」→「上空の大気には」

p.42 「物体を持ち上げれば, h=... (2.11)」の文が完結していない。このあとに たとえば「の高さまで上げることができる。」といった文が続くべき。

p.43 (3.2) 式

分子に p2 が抜けている。また、分母の c の指数は 4 ではなくて 5 が正しい。

p.48 幾何光学と散乱波

(3.19) の3行上 「擾乱がデルタ関数的に原点に局限されていれば」の意味が通らない。 「波が散乱を受けずに直進すれば」の誤りでは?

(3.19) では e-ikr が抜けている。

4.2 散乱光推定の簡単なモデル

(4.10) ではσが1個余分

p.69 (4.11) の2行下 : 式(4.11) → 式(4.10)

4.3 計算例

図4.2, 4.3 では、位相関数をどうしているのかわからない。レイリー散乱のつもりか?

図4.5 の直進光と散乱光が何を指しているのかわからない。