全体的には、いろいろ事故例が書いてあったりして興味を引くから すいすい読める。いろいろな問題点が網羅されているのが良い。 しかし一方で、羅列的で突っ込みが浅い。 たとえばどういう事故がどの程度増えているのかという統計が あまり出ていないし、本来はそう言った統計を元にどこが 問題なのかを突っ込んで取材し考察するということがないと いけないと思うのだが、それがない。読後感は週刊誌を 読んだ時と似ていて、なるほどいろいろな問題があるのはわかるが、 それが全体としてどういう構図の中で起こっているのかが良くわからない。
最近の航空運賃の値下げ競争の激化で、安全の方が軽視されがちに なっているということが本書で指摘されている。その点は私も 不安である。公共交通機関があんまり自由化しすぎると、安全性が おかしくなるというのは、たとえばイギリスの鉄道がそうである。 日本の JR よりインフラ整備が悪いし、重大事故が多い。 公共交通機関は、まったく国営だと、昔の国鉄のように政治家に あやつられて収益が悪くなったり、あるいはサービスが悪くなったり する。一方で、自由化しすぎると、イギリスの鉄道のようにインフラが 悪くなって事故が増えたりする。そのあたりのバランスを うまく取る必要があると思う。
本書を読んで、気になったことを2つ挙げる。
1つ目:1章では、80年代の自由化以来、効率重視で いろいろな問題が起きてきたことが語られる一方で、 2章でたくさん挙げられている事故例は、かならずしも そのような自由化とは関係がないものもある。そして 7章で示される統計では、事故発生率は増えておらず (横ばい)、発生率が減らないのが問題だという論点に なっている。こういった全体像に関する点が不明確である。
2つ目:4章では、サウスウエスト航空を高く評価していて、 その理由の1つが、機体を B737 に統一して効率化をはかっている 点にあるとしている。ところが、5章では、 B737 は尾翼に問題がある 機体であるとしている。もちろんこの2つは別の論点からの 評価ではあるが、総合的に見たとき著者はどう考えているのか 良く分からない。
ところで、まさに私の経験と一致したことが書いてある点が1つあった。
それはアメリカの空港の作りが開放的で警備が甘い点である。
数年前(もちろんテロで警備が厳しくなる前)、ロサンゼルスで
国際線から国内線に飛行機の乗り継ぎをするときに、入国手続きのため
いったん荷物を降ろしてから、もう一度国内線のために荷物を預け直さないと
いけないことがあった。ところが私は預け直す場所をうっかり
通りすぎて、刃物(といってもカッターとはさみ程度だが)の
入った荷物をそのまま米国国内線に持ち込んでしまった。
このときは何も言われなかった。問題点はいくつかあって、
(1)預け直す場所がわかりにくくて、うっかり通りすぎてしまう。
(2)荷物検査が甘くて、刃物を見逃す。
(3)空港の作りが開放的すぎて、利用客でない人まで搭乗口まで
行けてしまいそう。
などが挙げられよう。もちろん私はそのおかげでトラブルにならなくて済んで
ありがたかったのではあるが。