遺伝子の夢 [死の意味を問う生物学]

田沼靖一著
NHKブックス 811、日本放送出版協会
刊行:1997/10/25
名大内で廃棄してあったものを拾った
読了日:2002/05/14

近年の生物学の流行語(というより常識か?)の一つである 「アポトーシス」に関する一般向けの解説。私の高校までの知識では、 こんな言葉は聞いたことが無かったように思うが、 この概念が発明されたのは 1972 年だそうである。 新しい概念が一般に流布するのは 10 年以上遅れるものなので、 私が今頃知ったとしても、そんなものかもしれない。

アポトーシスは、細胞が自らプログラムにしたがって死んでゆく ものである。本書では、一方で、アポビオーシスという、 神経細胞などの再生しない細胞のプログラムされた死についても 解説される。その上で、そういった細胞の死の観点から 生物の死の意味を考えるという構成になっている。

アポトーシスは、科学の発見が、生きる意味とか死ぬ意味とかいう 哲学的な問題に影響を与える良い例である。細胞は、生物の 個体全体の維持や成長のために、アポトーシスによって自殺する。 生物の個体は、非再生細胞の死(アポビオーシス)や 再生細胞の分裂寿命が来ることによって死ぬべく運命づけられている。 しかし、個体の死により、次の世代が新たな姿で別の生き方を 選ぶ道が開ける。このようにして、生物は再生を遂げつつ進化する。 著者の書いているのはおおむねそういうことである。

哲学的な部分では、私は著者に賛成しかねる部分もあるが、 上に書いたおおざっぱな筋についてはまさにその通りだと思う。

死は生の更新のためにある