特集 熱力学の多彩な展開―現代におけるその世界像

数理科学 2002 年 8 月号
サイエンス社
名大生協で購入
読了日:2002/09/28
最近の熱力学に関する短い解説集。 それぞれ短いので、きちんと理解するのは不可能だが、 ざっと読んで雰囲気をちらっと味わうことができる。 以下の論説が集められている。

(SM)は全体のイントロダクション。

(NF)は古典的熱力学のあらすじ。

(TT)の内容:Maxwell は「統計的考え方」の重要さを十分に認識しており、 thermodynamics(熱動力学)ということばの中で「dynamics(動力学)」 ということばが使われることに違和感を感じていたという話。 ついでに、Stirling の公式は、 Stirling ではなくAbraham De Moivre が発見したのだということも紹介されている。

(KK)の内容:非平衡熱力学では、de Groot and Mazur のような標準的な 定式化とは少し違って、エントロピーの独立変数を、全エネルギー、運動量、 質量に取るべきだという考えが述べられる。それと、線形応答係数に ミクロな意味付けが可能であるという話。

(SM2)は、extended thermodynamics あるいは rational thermodynamics の紹介。 それは、マクロな公理論的(数学的)な立場から、熱が有限速度で伝播する効果や 局所平衡が成り立たない効果などを、熱力学に組み込む試みである。

(HT)の内容:確率論的熱力学とは、微視的な現象論であるランジュバン方程式や Kramers 方程式を基にしてエネルギーの議論を定量的にすることを可能にしたもの。 これによって、ファインマンラチェットの効率がカルノー効率を大きく下回ることや、 「動かない」状態でも局所平衡が成り立たないときには有限の散逸を生じうること などが示されている。

(AS)の内容:エントロピーに加法性が成り立たないとした場合、 Tsallis エントロピーの持つ擬加法性がかなり普遍的な性質で あることが示されている。

暇だったら、後半で紹介されているような新しいタイプの 非平衡熱力学をもっとまじめに勉強してみたいと思うのだが、 地球科学にすぐに応用ができる感じがしないので、なかなか手が回らなそう。