ゴールドコーストの遺品

山村美紗著
文春文庫 や 2 22, 文藝春秋
刊行:1996/07/10
文庫の元になったもの:1993/07-1994/02 週刊文春連載、1994/06 単行本
名古屋黒川の古本屋 BOOK OFF で購入
読了日:2002/09/01

しばらく前に、日曜の午後(だったと思うが)家でだらだらとテレビを 見ていたら、これをもとにしたテレビドラマ「名探偵キャサリン 南十字星殺人事件」というものをやっていた。で、古本屋でその原作が 目に止まったので読んでみた次第。読んでみると、推理小説としては、 それほどトリックもなし、といって舞台のオーストラリアの描写も いまひとつ表面的、というわけで、ちょっと平凡かなという感じ。

興味深いのは、テレビドラマがどう原作を作り変えるかということにある。 これはかなり変えられていて、枠組みだけ原作からいただいてきて、 あとは創作したというのに近い。ドラマの方は、かなり水戸黄門的 (というのは紋切り型という意味)になっている。 原作にない素人名探偵キャサリンが登場し、最後は彼女の謎解きで 犯人が追い詰められ多少の立ち回りの末逮捕されるという筋に嵌め込まれている。 キャサリンは写真家で、ワトソン役は助手の三郎と京都府警の狩矢警部 (原作ではしっかりした警部なのだが、 ドラマではちょっとずっこけた役回りを演じる)。 原作では犯人はたまたま落盤で死んでしまうのに、 ドラマではちゃんと立ち回りを演じて逮捕されないといけないので、 そのように筋が作り変えられる。 また原作の最後は、誘拐されていた池梨花の傷心で終わるのに、 ドラマでは、梨花と商社員の高田(ドラマでは名前は変えられていた かもしれない。忘れた。)のロマンスで終わる。 原作にないロマンスで終わらせるという手は、 有名な映画でもしばしば使われている手である。

以上のように、テレビドラマや映画というのは、お約束の型に嵌め込むという のが特徴で、原作よりも結末が盛り上がるように作られている。 原作がやや平板なので、この場合は効果的。 小説だと「お約束」を使うと飽きられるので、小説の場合、 どう盛り上げていくかは小説家の苦心の存するところではある。

この他にも、テレビドラマでは原作にない殺人があったり、原作より 人間関係を入り組ませてみたりで(たとえば、原作では池加代子と 犯人の小川は他人だが、ドラマでは元夫婦)、よりエンターテインメントの 要素が増やされている。エンターテインメントとしては、 原作よりもテレビドラマの方が良くできている。