笑うカイチュウ
寄生虫博士奮闘記
藤田紘一郎著
講談社
刊行:1994/09/20
札幌薄野の古本屋石川書店で購入
読了日:2003/09/12
”きれい社会”の落とし穴
人と寄生虫の共生
藤田紘一郎著
NHK 人間講座 2001 年 4 月〜 5 月期、日本放送出版協会
刊行:2001/04/01
どこで買ったか忘れた(名大生協?)
読了日:2003/09/13
以下、講談社の本を (A) 、NHK 人間講座の方を (B) と記す。
(A) は寄生虫の話を専門家が肩の凝らない調子で分かりやすく語った
しばらく前のベストセラー。おもしろくするする読めるように書いてあって、
半日程度で読み終えてしまった。
虫の名前が全部カタカナで書かれているのはかえって読みにくいことがある。
ガッコウチュウはやっぱり顎口虫と書いて欲しいと思う。
以下、(A) の内容と出てくる寄生虫の名前をまとめておく。
- 第1章:カイチュウ復活知らぬ医師
- 有機農業の流行で下肥が使われるようになって回虫(カイチュウ)が
増えている。しかし、診断ができない医師も多い。
虫 | 記述 |
回虫 |
通常は人に静かに寄生しあまり障害を起こさない。しかし、
多数の回虫が感染すると重い症状を引き起こすことがある。 |
- 第2章:寄生虫が語る僕たちへの教訓
- 最近、花粉症やアトピー性皮膚炎が増えたのは、寄生虫の感染率の減少が
原因である。寄生虫の生殖行動はいろいろ興味深い。また、遺跡に残る
寄生虫の卵から、昔の人のトイレや食生活の情報が得られる。
虫 | 記述 |
回虫 | ほとんど全部が生殖器官で出来ている |
住血吸虫 |
成虫になるとオスとメスがガッチリと抱き合い
末端の細い血管に到る |
広節裂頭条虫(サナダ虫) |
体節の一つ一つにオスとメスの両方の生殖器がある |
肺吸虫 |
オスとメスがずっと寄り添って生活する |
- 第3章:ペットかわいや寄生虫は怖い
- ペットから感染する寄生虫がある。犬回虫・猫回虫では、公園の砂場が
危いと言われたが、過度に心配するのは考えもの。
ペットには人の心を癒す働きもある。
虫 | 記述 |
犬回虫・猫回虫 |
ヒトに感染するとトキソカラ症を起こす。この寄生虫にとって
ヒトは本来の棲みかではないので幼虫が体中を動き回る。
大部分は肝臓に移行して、炎症を起こしたりする。
稀に眼球に移行し失明させる。 |
犬糸条虫(イヌシジョウチュウ:イヌのフィラリア) |
蚊を通じて感染。ヒトに入ると通常は死ぬが、生き延びて
肺に腫瘍を作ることがある。 |
トキソプラズマ(単細胞の原虫の一種) |
20%くらいの人が感染していて、通常症状はない。しかし、
妊娠中の女性が初めてトキソプラズマに感染すると、
子供に水頭症や視力障害がでてくる。猫の糞、調理が不十分な
豚肉などが感染源になる。 |
- 第4章:家庭より、やはり野におけ野性動物
- ペットとして輸入された野性動物などから感染する寄生虫も多い。
虫 | 記述 |
アライグマ回虫 |
終宿主であるアライグマにはたいして害を与えないが、
ヒトに感染すると、死に到ることがある。 |
エキノコックス(単包条虫、多包条虫) |
多包条虫が北海道で問題になっている。多包条虫は、
キタキツネとエゾヤチネズミの間で生活している。
人に感染すると肝臓癌と似た症状を示す。 |
- 第5章:食のタブー忘れたグルメの罠
- ゲテモノや珍味から感染する寄生虫も多い。
虫 | 記述 |
顎口虫(ガッコウチュウ) |
ライギョの生食で有棘顎口虫(ユウキョクガッコウチュウ)が、
ドジョウの生食で剛棘顎口虫(ゴウキョクガッコウチュウ)が
感染することがある。人の中では幼虫が体内を這い回る。
そのせいで瘤が移動するように見える。東南アジアで
淡水魚から感染することも多い。 |
マンソン裂頭条虫(マンソンレットウジョウチュウ) |
ヘビの生血、ヘビ、カエル、トリの生肉から感染する。水中の
ケンミジンコを飲み込んで感染することもある。人の中では
幼虫が動き回る。それにより起こる病気を
マンソン孤虫(コチュウ)症という。
瘤が移動するように見える。寄生する場所によっては重症になる。
|
広東住血線虫(カントンジュウケツセンチュウ) |
幼虫がクモ膜下のすきまなどに寄生すると好酸球性髄膜脳炎になる。
場合によっては重い症状を起こす。貝やナメクジなどを料理したり、
生で食べたりすると感染することがある。 |
宮崎肺吸虫 |
サワガニの生食で感染。胸膜炎のような症状を起こす。 |
ウエステルマン肺吸虫 |
モズクガニの調理中、あるいはイノシシの生肉から感染。
肺結核のような症状を起こす。 |
旋毛虫 |
自家製ソーセージ、クマの肉などで感染し、トリキナ病を起こす。
筋肉痛や関節の激しい痛みを起こし、場合によっては死に到る。
|
広節裂頭条虫(サナダ虫) |
マス、サケの刺身などから感染。症状は、下痢、腹痛などで
比較的軽い。クマが肛門から白い紐を出していることがあるので
「クマのふんどし」とも呼ばれる。 |
アニサキス |
海洋哺乳類を終宿主とする回虫。刺身から感染する。人の胃腸では
うまく発育できないので胃壁腸壁にもぐりこもうとし、
場合によっては激しい腹痛を起こす。しかし、診断さえ付けば
放っておいても自然に虫は死ぬ。 |
(B) は、2年前の NHK 人間講座のテキスト。当時はときどきテレビを見る
程度であまり真面目に読まなかったので、(A) を読んだのを機に再読してみた。
(A) に比べると、おもしろエピソードを省いているために、するするとは
読みにくい意味もあるが、図や写真があるのはわかりやすいし、
(A) よりも整理されている意味がある。(A) を読んだ直後だったため
すぐに読めて、約半日で読み終えてしまった。
(B) の内容には、(A) をほぼそのままコピーしている部分もある
(たとえば、第4回の「イカ刺し、しめサバ、アニキサス」は
(A) の第5章の「イカ刺し、しめサバ、アニキサス」とほぼ同じ)。
NHK 講座の方は、もともと前に書いたいろいろな話をまとめたようなもの
だろうから、そういう部分が多くても不思議ではない。
そういうわけで、(B) の内容は (A) と重なる部分も多い。各回の題名を
書いておくとだいたいの内容がわかる。以下、各回の題名と
内容の一部(偏ったまとめ)とを記す。
- 第1回:寄生虫はおとなりさん
- 寄生はごく当たり前に起こっていることで、宿主と寄生体の間の関係は
非常に多様(相利共生から害を与えるものまで)。
- 第2回:花粉症からダイエットまで
- 寄生虫はアレルギーを抑制する。
マリア・カラスはサナダ虫ダイエットで痩せた。
- 第3回:ひそかに増えている寄生虫
- 有機栽培ブームによる生の人糞尿使用などにより、寄生虫が増えている。
- 第4回:グルメにご用心
- グルメブームのゲテモノ食いなどによる寄生虫病。とくに、ヒトを終宿主と
しない寄生虫では、幼虫が体内を這い回る「幼虫移行症」を引き起こし、
診断や治療が困難。
- 第5回:かわいがるのもほどほどに―イヌ編
- ペットが原因の寄生虫はふつうそれほど恐ろしくない。
たとえば、イヌ・ネコ回虫症がある。幼虫はまず肝臓に入り、稀に
眼まで行くことがある。かつて、この原因として公園の砂場が
騒がれたが、実は、それほど多くはなく、むしろ
汚染された飼料で飼育されたウシやトリのレバ刺し、生肉などが
原因となる場合が多い。
- 第6回:かわいがるのもほどほどに―ネコ編
- ネコノミは直接ヒトを吸血するほか、「ネコひっかき病」を媒介したりする。
Q 熱は、経気道感染が主。日本での感染源はネコが重要。症状は、
ふつうは軽いが、稀に重症化。
- 第7回:無菌ジャパンの怖い罠
- 大腸菌 O157 が重症化するのは、清潔度が高く腸内細菌が少なくなった
人たちである。O157 は他の細菌に比べて比較的弱い細菌だからだ。
膣を洗いすぎると膣炎になりやすい。皮膚を洗いすぎると皮膚炎になりなすい。
どちらも有用な常在菌を追い出してしまうためだ。
- 第8回:カリマンタン島の奇跡―健康って何だろう
- カリマンタン島の子供たちには回虫などの寄生虫がいる。
しかし、そのおかげでアレルギー性疾患も少ないし、熱帯熱マラリアに
対するある程度の抵抗力も持っている。
- 第9回:寄生虫と仲良くしよう
- 行きすぎた潔癖症は危い。生きる力をかえって弱くしてしまう。