特集 激化する戦争 問われる日本

論座 2004 年 1 月号、朝日新聞社
名大生協で購入
読了日:2003/12/13
イラク復興支援に関する以下の論説集。朝日新聞の雑誌なので 自衛隊派遣には慎重あるいは反対の意見を述べているものが多い。 しかし、それだけが主題でもなく、イラク情勢のいろいろな分析がある。

以下、それぞれの議論のサマリー

(TJ):アメリカは、アフガン、イランと力の論理に突っ走ったが、 それとともにアメリカへの信頼は失墜した。日本外交は冷戦前の 状態から改革されず、何ら世界の変化に対応できていない。 イラク戦争を支持する論拠はない。支持論者は「国際協調」と 「対米協力」を巧みに混在させて虚構を作り出している。国際社会で、 今後注目すべき潮流は次の3つである:(1) 中国の台頭、 (2) 大ロシア主義の回帰、(3) 北朝鮮問題。これらのことを考えると、 日米関係の成熟化と、アジア戦略の多角化が重要である。

(YM):イラク復興には、文化交流などのソフトパワーが重要になる。

(HS):10 月 17 日のブッシュ来日の際には、首相官邸から支持が なされないまま、石破防衛庁長官は幕僚長にイラク派遣準備を支持した。 このことは、従来の海外派遣の慣行を破るものであり、官邸の腰が 引けていることを示す。一方で、自衛隊の側も陸上自衛隊の組織防衛の 意味があって、これに強く抗議しない。

(KY):イラクでは、一般市民が米軍の銃撃などの犠牲になる例が 後を絶たない。その原因となっている反米暴力組織は、旧体制の 残党や国外のテロリストだけではない。(KY) 氏が会った AM 氏は イラク特殊部隊にいたが、フセイン独裁を嫌い、イスラム武装勢力に 入った。それで現在は反米聖戦を行っている。このような勢力は 米軍、多国籍軍の脅威である。

(SK):イラク情勢が混迷を深める原因には、イラクの占領統治の まずさがある。まず、生活インフラの復旧が遅れている。それから、 戦後統治で脱バアス化、脱軍化を急ぎすぎた。CPA がそれを認識した 後の政策は一貫していない。また、失業が最も深刻な問題であるにも かかわらず、民営化を急ぎかえって失業を増やしている。さらに、 アメリカに任命された地方行政官が不適切な人物であった例も多い。 イラク人に任せられるところはイラク人に任せることも大事だ。 一方で、性急なイラク人化は権力抗争を生むかもしれない。

(TK):インタビューなので、いろいろなことを言っていて、まとまった 論説ではない。言っていることの例をいくつか挙げる。(1) 自衛隊派遣で 対日感情が悪くなることが懸念される。(2) アル・ジャジーラは 張り切っている。(3) クルドは自前の組織を持っているために、比較的 安定している。(4) アラブ人はトルコ人を嫌っていることを、アメリカは わかっていない。

(OK):イラクにおいては、一般犯罪は減ってきているが、組織化された テロ行為は増えており、NGO の活動も難しくなってきている。 占領軍に対するイラクの人々の感情は、5 月ころまでは歓迎ムードだったが、 油田の守備を優先したり、街中で市民に銃口を向けたりするために 悪くなっている。アラブの衛星テレビ局の反米的報道も影響している。 占領軍による復興はうまくいっていない。NGO の方がずっとうまくやっている。 復興は自衛隊ではなく NGO の方がずっと効果的に達成できる。自衛隊 派遣によって、イラクにいる日本人全体がターゲットになる可能性が 上がるのが怖い。

以上のように、いろいろな観点からのイラク情勢の分析が書いてあった。 まとまりがある記事もあれば、散漫な記事もあるというのが、上の サマリーを書いていて思うところ。一番リアリティがあるのは、 やはり NGO 活動を実際にしている (OK) 氏かな、と思う。