病としての韓国ナショナリズム

伊東順子著
新書y 042、洋泉社
刊行:2001/10/20
名大生協で購入
読了日:2003/12/20

韓国に十数年住み続けた著者が、韓国における行きすぎたナショナリズムに ついて、体験から語っている本。良く書けているので、2日で一気に読めて しまった。

ナショナリズムと聞いてまずすぐに頭に思い浮かぶのは反日感情だが、 この本ではそれはさらりと抑えてあるのが賢明。日本人が日本と韓国との 関係を書くと、しばしばバランスを崩してしまいがちになる。 その点は常識的な範囲でさらっと書いており、それは比較的気持ち良く 読める理由のひとつである。その代わりに、ここで主題となっているのは、 韓国にいる西洋人、中国人、日中韓以外のアジア系の人、あるいは逆に、 中国の朝鮮族、在日韓国・朝鮮人などが晒される、韓国の人々の 民族ナショナリズムに関してである。

歴史的には、長く中国の脅威に晒されたり、日本の支配を受けたり、 南北分断されたり、という中で韓国にはそれらへの抵抗として固く 醸成された民族ナショナリズムがある。それらは地縁・血縁の強さ とも相俟って独特の様相を示している。著者が過した 1990 年代には 反米感情のの高まりのせいで、アメリカ人以外の西洋人までもが排斥感情の 標的となった。一方で、中国の朝鮮族や在日韓国・朝鮮人にとっても 韓国は必ずしも住みやすい国ではない。それは韓国が序列社会であったり、 韓国の人々が在日の人々のことなどをあまりにも知らなかったりするせいだ。 外国人に対して非常に不利な政策がとられたため、華僑も成功せず、 韓国にはチャイナタウンがない。

などなどいろいろ問題点が描かれるものの、最後は、韓国が 世界に門戸を開いてゆく中で、偏狭なナショナリズムはだんだんと 克服されるだろうという希望的観測が述べられる。韓国人は日本人より オープンで楽天的である。何より著者は韓国に10年余りも住んでいて、 本当は韓国が好きなのだ。