入門 バクロ経済学
金子勝・テリー伊藤著
朝日選書 704、朝日新聞社
刊行:2002/05/25
名古屋藤が丘のさくら書店で購入
読了日:2003/07/27
ひとことでいえば、今の主流の経済学はみんな嘘っぱちだよ、という本。
テレビにも良く出る金子勝が、テリー伊藤と対談しつつ、現在主流の経済学や
経済政策がいかに誤っているかを語っている。テリー伊藤があまり
かっこうをつけずに素人考えを素直に述べているので、気持ち良く読めるし
わかりやすい。ただ、対談集の常として、それほど突っ込んだ議論が
されているわけでもない。経済学が誤っているとして、ではどうしたら
良いのかはよくわからない。でも、そのへんは金子氏は謙虚で
結局、経済現象全体の中で経済学にわかっていること、操作できそうなことって、
まだまだほんの一部でしかない。それなのにぜんぶがわかるようなふりをするから
間違えるわけですよ。
僕らにできることを、自戒をこめて言えば、野球で言えば
評論家やコーチですらなくて、
あえて言えばコミッショナー事務局の仕事でしょうか。
個々のチームや選手に関しては、そのチームや選手が何か悪いことをしたときは
別だけど、基本的には口は出さない。
それよりも、ルールの整備とか、野球界全体をどう盛り上げるか、
これをやったらこうなるよ、とか、野球というスポーツが全体の中で
今こういうポジションに立たされているよ、という見取り図、地図みたいなものを
示す役割なんじゃないか。
といういたって穏当な立場を表明している。
章ごとのまとめ
- 1時間目:日本人は貧乏か
- 景気を GDP の成長率ではかるのが普通だが、これにはほとんど意味がない。
デフレスパイラルを止め、失業率を下げることの方が大事だが、現在の経済学では
その処方箋がない。
- 吉田感想:「景気」や「GDP」ということばにたいして意味はないと
思っていたから同感。失業率を下げるのが基本だと思う。
- 2時間目:経済はそんなんじゃなかった会議
- 主流派経済学というのは全くでたらめである。たとえば、「神の見えざる手」
が働かないからこそ、デフレスパイラルが起こるのである。
需要と供給はそんなに都合良くバランスしない。
また、現在の経済政策もめちゃくちゃで、規制緩和をしたかと思うと、
空売り規制などのものすごい規制強化をしている。
- 3時間目:さらば、銀行
- 銀行に対しては、一気に公的資金を注入し、経営陣の責任を追求しなければ
ならないはず。しかし、政府は経営陣の責任を追求せず、無理やり救済している。
- 4時間目:構造改革の正体
- 小泉改革はまったくの誤りである。お題目と全く違うことをしている。
そもそもそれ以前に、サッチャリズムやレーガノミクスの真似をしようと
したのが間違い。もともとどちらもインフレ対策なので、デフレの時期に
やるとますますデフレが進む。さらに、今から見ると、サッチャーもレーガンも
失敗した。イギリスでは、教育と医療が荒廃し、産業の空洞化が進んだ。
アメリカでは財政赤字が膨大になった。経済が好転したのは、
サッチャーがフォークランド戦争を行い、ブッシュパパが湾岸戦争を行った
からに過ぎない。
グローバリゼーションはアメリカのために行われている。
BIS 規制は英米に都合が良く、日本やドイツのような銀行を中心とした
間接金融中心の社会には合わない。ペイオフで預金者にツケを回すというのは、
アメリカでも実際には行われていない。キャッシュフロー経営をすると、
エンロンのように、金融ばかりで中身がない会社が有利になる。
- 5時間目:お金ばかりじゃつまらない
- 経済学はお金ばかりではいけない。もともと経済学の祖である
アダム・スミスも、ルールやモラルの重要性を述べている。
自由な市場で何でも解決するなどというのは軽薄に過ぎる。
- 課外授業:世の中でいちばん高いもの
- 価値は金だけでは測れない。