パディントン発 4 時 50 分

Agatha Christie 著、大門一男訳
原題:4.50 From Paddington
ハヤカワ・ミステリ文庫 HM1-13、早川書房
刊行:1976/09/30
原著刊行:1957
名古屋本山の古本屋光進堂で購入
読了:2004/10/29
忙しいさなかの逃避行動で読んでしまった。マクギリガティ夫人がたまたま 並走する列車の車内で、絞殺が行われているのを見てしまった、というところから 始まるミステリ。その後の展開も面白く、一気に読めてしまう。 ミス・マープルものではあるが、ミス・マープル自身はあまり行動できないので、 行動する探偵役として、優秀な家政婦であるルーシー・アイレスバロウと ロンドン警視庁のクラドック警部が出てくる。どちらも頭の良い魅力的な 人物として描かれている。とくに、最初のところの死体を発見するまでは、 マープルの推理とルーシーの行動力と賢さとがうまく絡み合って 死体の発見につながるという実に卓抜な筋書きである。

ただ、最後が比較的あっけなくて、ミス・マープルがどうして 真犯人を言い当てられたのかがよくわからない。マープルものは、わりと どれもミス・マープルの直感の鋭さで事件が解決してしまうのが多いのだが、 このような長編では、こう魔法のように解決されてもねえ、という感じだ。


この大門訳には一つ目立つミスがある(ハヤカワ文庫の新訳(松下訳)では 直っている)。第24章最後のあたりの Marple の台詞に「I don't think, really, you're making it simple enough.」というのがあって、この大門訳では 「あなたはすこし単純に見すぎます。」となっている。もちろん 正しくはこの反対で「その解釈ではちょっと単純さが足りませんね。」 である。たまたまうっかりしたミスだと思うが、不幸にしてそれが決め台詞的な 場所だったということである。
後日 (2005 年 1 月) NHK のアニメ「名探偵ポワロとマープル」の 第 21-24 話として放映された。アニメで作られたキャラクターである マープルの姪のメイベルにルーシー・アイレスバロウ役をやらせていた。 今まではあまりメイベルが活躍する話がなかったので、ここいらで 活躍させようということであろう。ルーシーがメイベルに変わった以外は ほぼ原作に忠実。もともと原作でも最後にマープルが一芝居打って 犯人を名指しするというテレビ的な演出がなされている作品だけに、 アニメ化にも相性が良いのだろう。

砒素が入っていたのがカレーではなくシチューになっていたのは、 和歌山の事件に対する配慮のつもりか?どっちにしたって思い出すときは 思い出すのに、と思う。