邪悪の家

Agatha Christie 著、田村隆一訳
原題:Peril at End House
ハヤカワ文庫、クリスティー文庫 6、早川書房
刊行:2004/02/15
原著刊行:1932
名古屋栄のマナハウスで購入
読了:2004/11/05
題名は直訳すれば「岬屋敷に迫る危難」とでもなるだろうか。田村訳の新装版。 命を狙われているニック・バックリー(End House の女主人)を ポアロが救おうとするというところから始まる物語。読者を飽きさせない展開で、 すぐに読み終わった。

ただし、解決の仕方には、ちょっと筋を少し複雑にしすぎだよなあ、 という感じがある。一見善人に見えていた人が実はすべて悪人で、 怪しく見えていた人が実は善人だったということにしてある。 さらに、本の大部分では出てこなかった悪人が一人最後に出てくる。 それで、大きな悪事が一つと、それとは基本的には独立の小さな悪事が 複数あることになって、ものごとが複雑になっている。 これでは、なかなか謎が解けないわけである。もっとも、 本筋だけだとおそらくすぐに犯人がわかってしまうだろう。

あと、推理のポイントの一つがイギリス人の人名と愛称に関わることなので、 ポアロに説明されればわかるけど、日本だったら成り立ちにくい事件だなという 感じである。


その後、NHK のアニメで「エンドハウス怪事件」として放送されたものを見た。 原作よりもだいぶん簡単化されていた。フレデリカに罪を着せるように ニックが仕組んだというだけになっていた。そこで、フレデリカが最初 悪そうな人物になっていて、最後に逆転するという単純な筋になってしまっていた。 たぶんそうしないと、複雑になり過ぎてアニメでは訳がわかりにくくなるせいだろう。 たとえば以下の通り。 (1) ジム・ラザラスが登場しなくなっていた。これは本筋とは 外れた飾りの部分なので、複雑化を避けるにはやむを得ないであろう。 (2) フレデリカの夫が最初の方で出てきている。これは、原作では 若干唐突に後の方で現れるので、改変も理解できる。 (3) マギーが 花火のときのパーティーに来るのが最初から予定の通りの行動になっている。 これはポアロが謎を解く鍵の一つを失うことになるので、ちょっとどうかと いう感じである。(4) クロフト夫妻も登場しない。これも筋を複雑化 するための道具立てなので避けたということだろう。 (5) ポアロが マギーの実家に行って手紙や墓標の名前を見たことになっている。 これをしたとすると、ポアロが謎を解いた道筋が非常にはっきりするのだが、 一方で、もしその答えを視聴者が見てしまうと答えがすぐにわかることになる (アニメでは、その時点では手紙や墓標の文字が見えないように隠してある。 小説では使いづらい手だ)。 (6) チャレンジャー中佐は悪人でもなく たいした役割がなくなっていた。