クリスマス・プディングの冒険

Agatha Christie 著、橋本福夫他訳
原題:The Adventure of the Christmas Pudding
ハヤカワ文庫、クリスティ文庫 63、早川書房
刊行:2004/11/30
原著刊行:1960
名古屋栄のマナハウスで購入
読了:2004/12/07
そんなに有名な短編集でもない(と思う)ので、あまり期待しないで読んでみたら、 実は結構味のある名品揃いだった。ポアロものが6編とマープルものが1編である。 これらのポアロものにはヘイスティングスはいない。

以下、それぞれの作品について。

クリスマス・プディングの冒険

橋本福夫訳
原題:The Adventure of the Christmas Pudding

これはクリスマスの愉しい雰囲気に乗せて書かれている。 子供の殺人事件ごっこがあって本当の殺人事件はないし、 クリスマスのおいしそうな食卓が出てくるし、最後には 正直な女中が出てくるというわけで、なかなか洒落ている。

スペイン櫃の秘密

福島正実訳
原題:The Mystery of the Spanish Chest

事件解決のアナロジーに、シェイクスピアのオセロを 出してくるのが気が利いている佳品。

負け犬

小笠原豊樹訳
原題:The Under Dog

事件解決に催眠術を使うのは反則(?)という気がしないでもない。 最後に犯人をはっきり見つけるときに、犯人をちょっと罠にかけるところは 刑事コロンボを思い出した。コロンボのようの倒叙物にしたら 犯人の心理劇として面白いかもしれない。

二十四羽の黒つぐみ

小尾芙佐訳
原題:Four-and-Twenty Blackbirds

題名の「二十四羽の黒つぐみ」がマザーグースから来ていたとは 巻末の解説を読むまで気付かなかった。 本文中に注釈を入れてもらいたいものである。でも、 そのマザーグースの英語の詩を web で探して見てみたら、 そういえば歌として聴いたことがあったことを思い出した。 そして、どうしてこんな題名になっているのかもわかった。

Sing a song of sixpence,
A pocket full of rye;
Four and twenty black birds
Baked in a pie.

When the pie was opened,
The birds began to sing;
Was not that a dainty dish,
To set before the king?

小倉多加志訳
原題:The Dream

ある種の密室殺人事件なのだが、自殺に見せかける道具立ての 工夫が良くできている。一見自殺以外の可能性が考えられない ようになっている。

グリーンショウ氏の阿房宮

宇野利泰訳
原題:Greenshaw's Folly

これだけマープルもの。ジェイムズ・バリー (James Matthew Barrie) の 劇を解決のひとつのヒントに使っているところがマープルらしいのだが、 残念ながら私はこの名前を知らなかった。でも web で調べてみたら 「ピーター・パン」の原作者だった。イギリスでは、他の作品も有名なのだろう。


後日、NHK TV アニメ「名探偵ポワロとマープル」第34話で「二十四羽の黒つぐみ」 を見た。原作との主な違いは以下の3つ。(1) ポワロの友人ヘンリ・ボニントンを 登場させず、彼の役回りとポワロの役回りの一部を、メイベルとヘイスティングスに やらせていた。(2) 最後は、ポワロが犯人の前で推理を披露して犯人を追い詰める という、テレビの常套手段の終り方になっていた。(3) 題名とマザーグースの歌の 関連の解説をポワロとメイベルが最後にやっていた。いずれも、テレビアニメ化の 手法としてはもっともなところ。