地震災害論
京都大学防災研究所 編
防災学講座2、山海堂
刊行:2003/09/01
名大地震火山防災研究センターで借りた
読了日:2004/07/10
京大防災研究所の公開講座のテキストをまとめたものだそうで、
いろいろ興味深い記事が集められている。しかし、それぞれの
記事はそれなりにおもしろいものの、編集に力が入っていないことが
この本の最大の難点である。
一般向けのつもりらしいが、基礎知識がうまくまとめられていわけでもない。
著者によって書き方の統一性はない。
その書き方も、講演会の資料としてなら理解できるが、
本としては羅列的で読みづらいものも多い。
私は、似たような話をしょっちゅう聴く機会がある人間なので、
このような書き方でも、それなりに楽しめさっと読み飛ばすことができるのだが、
一般の人にはそれは無理なのではないだろうか。
編集がほとんどなされていないことがわかるのは、たとえば以下のようなことによる。
第1章の 7 節では、白黒印刷なのに、図の説明に青線とか緑丸とか
書いてある。p. 67 には「図1.30 の+印」とあるがそんな印は図1.30 にはない。
そんな状態では、それだけで読む気が減退する。
同じ節では、アスペリティとか経験的グリーン関数などプロ向けのことばが
ほとんど説明なしででてきて、これは一般向けとはいいがたい。
と、一通り文句を述べたあとで、もちろん良く見ると勉強になることも
たくさん書かれているので、その例をいくつか取り上げておこう。
(1) 私は、ふだん津波の話を聴く機会は少ないので、第4章の津波防災の話は
興味深い点があった。ひとつは、瀬戸内海は内海なのであまり津波が入らないと
私は思っていたが、複雑な多重反射を繰り返して局所的には大きな津波が襲いうる
という点だ。もうひとつは、津波による都市の地下空間への浸水について
比較的詳細に書いてある点だ。これは見逃されやすい点ではないかと思う。
とはいえ、少し気になったのは、地下空間がすでに地震の被害を受けている上で
津波がやってきた場合にどうなるのかということまでは想定されていないように
見受けられることである。ここにあるシミュレーションは、洪水による
堤防決壊でも同様に成り立つ。
この津波の章で、文章上気になったのは、11 節の「この危機管理」がどの
危機管理のことかわからない点である。この節の最後に、「この危機管理」の
欠点を述べているが、誰に対する批判なのかよくわからない。
(2) 第3章III の建築の検査に関することを書いてあるところで、日本においては、
戸建住宅の工事の検査を実質的に何ら行わずにすむことが指摘してある。
これは 1998 年の建築基準法改正においても直っていない。