石油神話     時代は天然ガスへ

藤和彦 著
文春新書 152、文藝春秋
刊行:2001/01/20
名大生協で購入
読了日:2004/05/31

石油の経済に関して、多くの人が漠然と信じていることが誤りである ことを指摘し、それを踏まえた上で今後のエネルギー戦略を考える必要がある と論じた本。とくに天然ガスの重要性を強調している。 少し見方が甘いのではないかと思うところもいくつかあるが、 石油をめぐる経済がどういう論理で動いているのかがよくわかる。

章を追って順番にサマリーと感想を書いてゆく。

第1章 石油危機の虚像と実像

【まとめ】73-74 年の石油ショックは、石油輸入量が減っていないにも 関わらず起こった。79 年の石油危機のときには、先進国の石油在庫はむしろ増えた。 これらの石油危機の本質はパニックであり、本当の需要供給とは実は 関係がなかった。90-91 年の湾岸戦争の時には、価格は上昇したものの 以前ほどのパニックは起らなかった。その要因としては、市場の透明性の高まり、 備蓄の増加、非 OPEC 地域での石油産出の増加などが挙げられる。 最近では、石油価格が乱高下するようになっているが、これは悪影響が大きい。 それは、将来の石油価格の予想がつかないため、油田への開発投資、 代替エネルギーへの開発投資が抑えられることにある。

【感想】第一次石油危機の時のかすかな記憶:ニュースでは トイレットペーパーの騒ぎをやっていたのに、家は田舎だったので そういう騒ぎもなく、全然実感と乖離していたように思う。

第2章 カジノ化する石油市場

【まとめ】最近では、原油価格が乱高下するようになった。これを OPEC のせいだと するまことしやかな説明もあったが、OPEC 諸国にしても乱高下の被害者である。 石油が投機の対象になっているからというのが本当のところだ。 そうなってしまうひとつの理由は、実需給動向が誰にも分かっていないことにある。 米国の統計は比較的早く出るが、それ以外の国は数ヵ月遅れだし、 統計が分からない国も数多い。

そうでなくても、石油は価格が大きく動きやすい。 それは2つの理由による。ひとつは、供給面で生産量増減のために要する タイムラグが大きいこと。もうひとつは、需要面で価格弾力性が低いことである。 そのために次のようなことが起こる。いったん価格が下がると、生産者は 収入を維持しようとしてさらに増産し、ますます価格が下がる。そのために 生産投資も減る。やがて、低価格により需要が増大して、供給力が不足すると、 需要の短期の価格弾力性が低いために価格が急騰する。その後投資がなされて ゆっくりと生産能力が増加するまで高価格が続く。その後、また供給が過剰に なると暴落する。

その他にも価格の乱高下を招く要因としては、産油国の間で生産コストに 大きな開きがあり共同歩調を取れないことや、産油国の政治的混乱の影響を 受けやすいことなどもある。

【感想】システムの「硬さ」と「タイムラグ」によって不安定が起りやすい、 というのはおもしろい。数学モデルもたぶん簡単にできるだろう。

第3章 石油は近い将来、枯渇してしまうのか

【まとめ】石油ショック以来、石油は早晩枯渇すると言われ続けてきたが、 これは「神話」のひとつであり、もはや成り立たない。 それは、油田の新規発見があることと、技術革新により回収率が 上がることが理由である。また、仮に、そのようなことがなくても、 石油価格が上昇すれば、コスト的に高くても回収率の高い技術を 用いることになるだろう。したがって、悲観論は今後しばらくは 成り立たないだろう。しかし、もちろん安心していてはいけないのであって、 新規油田の開発と技術革新は常に行われていなければならない。

【感想】そうはいっても、今世紀のうちに供給のピークが来るような気がするし、 需要の伸びに対する見通しが甘い気もする。この本では、たとえば 中国やインドなどが高度成長をして石油の需要が大幅に増えれば、 資源枯渇より環境問題が深刻になるとしているが、本当にそうだろうか?

第4章 OPEC の市場支配力は本当に衰退したのか

【まとめ】OPEC にはもはや市場支配力はない。 理由のひとつは非 OPEC 諸国の生産が増えたことである。 もうひとつは、OPEC 諸国の国による事情がそれぞれ違い、 結束が維持できない、すなわち抜け駆けがあることである。 価格維持のための減産をする余裕がある国はサウジアラビアくらいである。 一方で、生産国で無理に価格を上げるのに成功したとしても、 需要が減り代替エネルギー開発も進むので、生産国にとって得にならない。

第5章 遠くなるセブン・シスターズ時代

【まとめ】一方で、メジャーにももはや支配力はない。 メジャーとは、国際カルテル集団で、米国のエクソン、モービル、 シェブロン、テキサコ、ガルフ、英国のBP、蘭英のロイヤルダッチシェル の7社(セブン・シスターズ)である。これら7社は第二次世界大戦終了後から 1970 年代初頭まで世界の石油市場を支配した。しかし、70 年代なかば以降、 産油国が石油利権を接収・国有化したので凋落した。70 年代以降は 北海油田などで、その他の石油会社も加わり、メジャーの地位は落ちていった。 最近では合併吸収も次々に起っている(エクソン=モービル、 BP=AMOCO が出来て、テキサコとガルフはシェブロンに吸収される)。 メジャーは、かつて上流事業と下流事業の両方を支配していたが、 最近ではどちらか片方に重点を置きつつある。また、大手石油会社は 最近では、石油・天然ガス・発電を組み合わせた総合エネルギー会社に なりつつある。

第6章 二十一世紀は天然ガスの時代

【まとめ】天然ガスは、重量あたりの発熱量が大きく、二酸化炭素発生量も 少ない優れたエネルギー資源である。しかも、埋蔵量はおそらく石油よりも多い。 従来、使用量が少なかったのは、パイプラインの敷設など莫大な投資が 必要だったからである。また、天然ガスは油田より深いところにあり、 発見が遅れたせいもある。

日本での天然ガス利用は遅れている。欧米諸国では、エネルギー消費の 25 % くらいが天然ガスになっているのに比べ、日本では 11 % にすぎない。 また、日本ではほとんどが LNG という形で輸入され、パイプライン敷設が ほとんどなされていない。サハリンなど日本周辺でガス田が見つかって きているので、パイプラインの整備も急ぐべきだ。パイプラインのメリットは、 液化のためのエネルギーが不要になることや、パイプラインの周辺では 直接自家発電などに利用できることである。

【感想】たしかに日本のエネルギー開発はバランスが悪く、 石油や天然ガスなどでは技術力がはっきり遅れているように思う。 ただし、著者はメタンハイドレートにもかなり期待をしているが、 これはちょっと甘いかも知れない。現実には、日本近海でも たくさん埋蔵が確認されているものの、どう採掘して良いのか 全く分かっていない。

終章 カオスか、安定か

【まとめ】石油市場の中長期予測は不可能である。それを踏まえた上で、 石油中心から石油・天然ガスの組合わせへと移行してゆく必要がある。