ハンチントンは、世界が一極・多極構造になったと分析する。 一極は超大国アメリカで、多極は8つの主要文明とその中心の国々である。
文明 | 地域大国 | ナンバー・ツーの地域大国 |
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西欧 | ドイツ・フランス | イギリス、オーストラリア |
東方正教会 | ロシア | ウクライナ |
中華 | 中国 | ヴェトナム、韓国 |
日本 | 日本 | |
イスラム | イラン、インドネシア | サウジアラビア、エジプト |
ヒンドゥー | インド | パキスタン |
ラテンアメリカ | ブラジル | アルゼンチン |
アフリカ | ナイジェリア、南アフリカ | |
番外 | イスラエル |
「文明の衝突」で語られるのは、文明が共通する国々は協調しやすく、 異なる国々は敵対しやすいということだ。 こういう構造の中で起ってくることがいろいろと語られる。
日本に関して語られていることで興味深いのは balancing と bandwagoning の 話だ。国際関係論によると、新興勢力に対し、他の国家は balancing (勢力の均衡の維持)か bandwagoning(追随)かのいずれかの戦略を選ぶ。 西欧の国際関係論では balancing の方が安全だとされる。強国がいつまで 寛容かわからないからだ。ところが、日本はずっと bandwagoning の政策を 取ってきた。日英同盟→日独伊同盟→日米同盟、という具合いに当時の強国への 追随路線を選んでいる。
アメリカに関して語られていることで特徴的なのは、 多文化主義を否定しているところだ。アメリカは西欧文明の一員でなければ アメリカではあり得ず、国内に多文明を包含するのは不可能だとしている。 同時に世界が単一文化であることもあり得ず、世界の文明の多様性は 認めないといけないとしている。
こういう国際関係論の良いところは、世界を見るための視点を ばっさりと大づかみに与えるところにある。良く考えると あてはまらない例もたくさん出てくるので、それを元に批判する人も 多いようだ。しかし、それはこの手の議論の宿命なので、 私はそれほど問題だとは思わない。 逆に、そんなことを気にしていたら、こういう大づかみでわかりやすい議論も 成り立たなくなるだろうから、かえってまずい。
しかし、私が気になったのは次の点だ。 このような文明の衝突論を元にすると、今のイラク戦争に関して 「米国人は中東の文化の異質さに気づいていなかった」 (ハンチントン自身のことば;読売新聞 2004 年 5 月 20 日 ) のような論評がでてくる。 しかし、イラク戦争の誤りを文化のせいにしてしまうのは、本質的な問題を棚上げに することになると思う。もっとも、この言葉の前後関係が分からないので、 実際は他の問題も論じているのかもしれないが。