文明の衝突と21世紀の日本

Samuel P. Huntington 著、大石主税訳
英語題名:Japan's choice in the 21st century
集英社新書 0015A、集英社
刊行:2000/01/23
名大生協で購入
読了日:2004/06/23

「文明の衝突」で有名な著者による以下の3つのものが集録されている 以上の書かれた/講演された年で分かるように、これはクリントン時代のものである。 ハンチントンのその時の世界観がわかりやすく書かれている。

ハンチントンは、世界が一極・多極構造になったと分析する。 一極は超大国アメリカで、多極は8つの主要文明とその中心の国々である。

文明地域大国ナンバー・ツーの地域大国
西欧ドイツ・フランスイギリス、オーストラリア
東方正教会ロシアウクライナ
中華中国ヴェトナム、韓国
日本日本
イスラムイラン、インドネシアサウジアラビア、エジプト
ヒンドゥーインドパキスタン
ラテンアメリカブラジルアルゼンチン
アフリカナイジェリア、南アフリカ
番外イスラエル

「文明の衝突」で語られるのは、文明が共通する国々は協調しやすく、 異なる国々は敵対しやすいということだ。 こういう構造の中で起ってくることがいろいろと語られる。

日本に関して語られていることで興味深いのは balancing と bandwagoning の 話だ。国際関係論によると、新興勢力に対し、他の国家は balancing (勢力の均衡の維持)か bandwagoning(追随)かのいずれかの戦略を選ぶ。 西欧の国際関係論では balancing の方が安全だとされる。強国がいつまで 寛容かわからないからだ。ところが、日本はずっと bandwagoning の政策を 取ってきた。日英同盟→日独伊同盟→日米同盟、という具合いに当時の強国への 追随路線を選んでいる。

アメリカに関して語られていることで特徴的なのは、 多文化主義を否定しているところだ。アメリカは西欧文明の一員でなければ アメリカではあり得ず、国内に多文明を包含するのは不可能だとしている。 同時に世界が単一文化であることもあり得ず、世界の文明の多様性は 認めないといけないとしている。

こういう国際関係論の良いところは、世界を見るための視点を ばっさりと大づかみに与えるところにある。良く考えると あてはまらない例もたくさん出てくるので、それを元に批判する人も 多いようだ。しかし、それはこの手の議論の宿命なので、 私はそれほど問題だとは思わない。 逆に、そんなことを気にしていたら、こういう大づかみでわかりやすい議論も 成り立たなくなるだろうから、かえってまずい。

しかし、私が気になったのは次の点だ。 このような文明の衝突論を元にすると、今のイラク戦争に関して 「米国人は中東の文化の異質さに気づいていなかった」 (ハンチントン自身のことば;読売新聞 2004 年 5 月 20 日 ) のような論評がでてくる。 しかし、イラク戦争の誤りを文化のせいにしてしまうのは、本質的な問題を棚上げに することになると思う。もっとも、この言葉の前後関係が分からないので、 実際は他の問題も論じているのかもしれないが。