いろいろな発見があって、面白い本である。人間はどの程度までガイアの一部であるのか? 各種の環境調整プロセスにどの程度まで生物が関わっているのか?など、いろいろと考えさせられる。 ただし、もともとが 1979 年出版の本なので、今から見ると、ちょっと描かれている調子が古いかな、 という感じもするところがある。ひとつの要因は、ガイア仮説のおかげではあるのだが、現在では 生命活動の環境要因に与える重要性がかなりあたりまえに認識されるようになってしまっていることである。 別の面としては、ガイア仮説を強調するあまり、無生物的な要因が重要な過程でも 生物的な要因が強調されすぎているきらいがある感じがする(もっともそういうことを 考えすぎると中途半端な本になっていただろうから、これはこれだからこそ立派なのであるが)。
翻訳は、最後にメモしたように多少の問題はあるが、気になるほどのものではなく、 大きな問題はない。訳者あとがきを見ると、訳者はもっと地球の繊細さを強調したものを 期待していたようで、Lovelock がけっこうドライなのに御不満の様子である。 私はこのくらいドライなのが良いと思うのだが。
以下の英語原文とそのページ番号は、J.E. Lovelock (1979) Gaia -- A New Look at Life on Earth, Oxford University Press の 1982 版 paperback による。
本書ページ(英文ページ) | 本書和訳 | 英語原文 | 吉田私訳 |
173(94) | クリル | krill | オキアミ |
212(119) | 自然のエアロゾル推進ガスに相当する | the natural equivalent of the aerosol-propellant gases | スプレー噴霧用ガス(フロン)と似た役割をする自然界に存在する気体 |
231(129) | ただし、間氷期の氷と永久凍結地帯による現在の欠損率は、これよりはいくぶん低い | although her present losses are somewhat less, since in between glaciations there are still regions of ice and permafrost. | とはいえ、彼女(ガイア)が現在失っている割合はそれ (30%) よりもいくぶん低い。 というのも、間氷期においても氷や永久凍土で覆われた地域があるからである (その部分は、現在人間活動で失われているわけではなくて、 もともとガイアに関与していない)。 |
234(131) | 全システムのエネルギー転移(太陽エネルギーその他) | the transfer of solar and other energy throughout the entire system | 太陽エネルギーやその他のエネルギーのシステム全体に広がる受け渡し |
257(143) | あらゆる見通しが明るいとき、ガイアのパートナーとしてのみずからの役割を 受け入れた人間は、下劣な存在である必要がなくなる。 | Where every prospect pleases, and man, accepting his role as a partner in Gaia, need not be vile. | あらゆる風物が心地良いとき、人間も自らがガイアのパートナーであることを自覚していれば、
卑しいということはあるはずもない。 [注釈:この文はもともと、英国がインドを植民地にしていた時代にスリランカについて レジランド・ヒーバー主教 (Bishop Regiland Heber) が書いた聖歌 (hymn) の一節 Where every prospect pleases, and only man is vileを下敷きにしている。この一節は、当時の英国人が植民地の人々を侮蔑している様子が 良く現れているとして有名らしい (訳文引用元: @BODDO 大アジア思想活劇 第四章)] |