惑星科学入門

松井孝典著
講談社学術文庫 1222、講談社
刊行:1996/04/10
名大生協で購入
読了:2004/05/09
教養講義のための読書の第3弾。惑星科学全般について、話題を一通り 網羅的に書いてある本。 各惑星の特徴などで、話題になっているようなことはだいたい全部 書いてあるような感じである。もちろん刊行以来8年たっているので、 その間に起こった系外惑星系の発見の嵐のようなことは載っていない。 私にとっては惑星科学のコンパクトな復習みたいな感じで、 そう言う意味では便利だ。

気付いた点 (第 5 刷に基づく)

これだけの厚さの本だと、当然ちょっと気になるところがいくつか出てくる。 それを以下に一応書いておく。決して多いというわけではない。

カバー裏の宣伝文句:注目の「松井理論」
宣伝文句に書いてある「松井理論」の説明は、スタンダードな太陽系形成論で、 提唱者の名前を挙げるとすれば林忠四郎とか Safronov などを第一とすべきである。 とすれば、この「松井理論」とは何か?

p.34 最後の行:もちろん自転もそのひとつだ。
この「その」が何を指しているのか不明。素直に読むと「大気運動の エネルギー源」を指しているのだが、自転はエネルギー源にはならないのでおかしい。

p.35 最後のあたり:このくらいの圧力になると物質は自分自身の重さを支えきれず 押しつぶされてしまう。
水星中心は圧力が低いのでものが押し潰されないが、地球中心だと押し潰されると いう文脈。水星と地球の違いは程度問題で、物性論的にはどっちも低圧だという 言い方もできるので、ちょっとひっかかる。

p.36-37 :水星の起源
水星の密度が高い理由として、分化した微惑星どうしが衝突し、 岩石成分が吹き飛ばされた、と書いてある。しかし、 他の可能性もまだ排除されてはいないと思う。

p.69-70 :ここで惑星の形がどのように定義されるか述べておこう。普通は 重力の等しい点を連ねてその惑星の形とする。
正確には「重力」ではなく「重力ポテンシャル」でなければならない。 一般向けの説明のためにポテンシャルということばを避けたのであろうが、 重力加速度が等しいわけではないのでひっかかる。

p.127 l.6-8 :(木星の)磁場の強さは中心で地球の1万9000倍も強い。
この1万9000倍は磁気モーメントのことで、 磁場の強さ(磁場ベクトルの大きさ)は中心でも木星の方がそんなに強いわけ ではない。せいぜい地球の数十倍程度であろう。磁気モーメントは体積がかかるので その分大きくなるのである。

p.222 l.10:負の偏光
このことばはちょっと専門的すぎるように思う。ちゃんと説明するのは 面倒ではあるが。

p.247 最後の行― p.248 l.4:クレーターの生成率の誤差が標準×(0.6〜6) のとき 年代の誤差も標準×(0.6〜6) となる。
クレーターの生成率と年代との関係は線型ではないので、年代の誤差は そんなには大きくならない。

p.265 最後の4行:ウィドマンシュテッテン構造がニッケルの分布を反映している
ウィドマンシュテッテン構造はむしろ、テーナイトからカマサイトが析出して できた構造と言った方が良い。もちろん結果的にニッケルの分布が変わるので、 間違いとは言えない。そのニッケルの分布から冷却速度が分かる。

p.293 l.1-2:(太陽は普通の星だから、)太陽の元素組成はまた、 宇宙の代表的な元素組成といってもよい。
太陽の元素組成が本当に宇宙を代表しているかどうかは疑問。 太陽が生まれてから46億年たっていてその間にも宇宙は進化しているのに対し、 太陽は基本的にはそのときの組成を固定している(太陽内の核融合の結果は除く)。 46億年前の時点にしても、太陽の元素組成には近所で起こった超新星爆発の 影響を強く受けているので、それが宇宙全体を代表しているとはいえない。


気付いたミスプリ (第 5 刷に基づく)

p.16 図1.2 のキャプション
(誤) 地球と月の石および隕石の形成年代
(正) 地球と月の石および隕石の形成年代