地球が丸いってほんとうですか? 測地学者に50の質問
日本測地学会監修、大久保修平編著
朝日選書 752、朝日新聞社
刊行:2004/05/25
名大生協で購入(公式刊行日前の 2004/05/14!)
読了:2004/05/25(公式刊行日!)
日本測地学会の50周年を記念して作られた本。測地学会が出す本と言えば、
以前は、専門家も読めないほど専門的な本だったりしたものだが、
これは一般向けに非常に読みやすく書かれた本である。
むかしの私のボスであった大久保さんが編集をしておられるということと、
1、2年生に講義ネタにちょっと使おうという気分もあったので、
本屋で見てすぐに買ってみた。
内容は、Q&A 形式で測地学をわかりやすく説明しようというもので、
数式を使わずにわかりやすくかつ正確さを最大限失わずに書いてある。
複数の著者が書いているにも関わらず、全体の相互関係に非常に注意を
払っているし、レベルも文体も統一が取れているのは、おそらく編者の
大久保さんの努力の賜物であろう。私が見る限り、誤りもほとんどない。
多少の不満があるとすれば、いまの日本測地学会のありかたに即しすぎている
感じがするところである。たとえば、この手の話題で、私が講義するときには、
惑星科学への応用をかなり入れるようにしているが、その視点が少ない
(Q&A30 の月の話のみ)。地球の測地学としては古典的でも、
惑星科学としては最先端で利用されていることはたくさんあり、
重要であると思う。
また、数式を避けているために、ちょっと無理をしているところもあるし、
大学生相手の講義の材料としては不足な部分もある。以下に、
例を2つくらい挙げておこう。
- [Q&A37] 粘性と塑性は本当は異なる意味合いの言葉なのだが、
数式抜きではきちんと説明し難いところがあり、
ここではあまり区別していない。
- [Q&A40] 海の潮位変動がプラスマイナス 1 m の程度で、
固体潮汐はラブ数をかけて 60 cm とある。本当は、平衡潮は
peak-to-peak で最大で 80 cm 程度なのである(月の影響で 54 cm、
太陽の影響で 25 cm)。固体潮汐は、これにラブ数をかけて、
peak-to-peak で最大で 50cm くらいになる。この点は、
著者(大久保さん)本人に
確認したところ、数式を使えないので、それはそれと知りながら、
図 39-1 のような日本付近の海洋潮汐の振幅を海洋潮汐の値の
代表値として書いた方が日常的な感覚に合うだろうということで
そうしたのだそうである。
ミスプリ(第1刷に基づく)
この本はミスプリも非常に少なく、これも編者の注意深さを示すものだろう。
私が気がついたのは以下の前者の一箇所のみで、後者は誤りかどうかわからない。
- p.206 後ろから 3 行目
- (誤)合力(潮汐) (正)合力(潮汐力)
- p.266 3 行目
- 「デハン博士」はたぶん「ドアン博士」の方が正しい発音に近い
(Dehant のフランス語読み)。ただし、これも編者に確かめたところ、
「デハン」と読んでいるのを聞いたことがある人がいるそうなのでそうした、
ということなので、「デハン」の方が近いかもしれない。とはいえ、
普通の標準的なフランス語の読み方の規則に従えば、「ドアン」が
正しい発音に近いはずではある。