源泉徴収と年末調整     納税者の意識を変えられるか

齋藤貴男 著
中公新書 1291、中央公論社
刊行:1996/03/25
どこで購入したか忘れた(東大生協?)
読了日:2004/03/04

ずっと以前に税金の確定申告をする必要があったときに買ってみて そのまま読まずに積んでおいた。今年ふたたび確定申告をしなければ ならなくなり、税金への意識が高まったので、読んでみることにした。 税金を払う必要のない人にとってはあまり面白くない本だろうが、 払う立場になってみると、源泉徴収制度の歴史など知っておくべき事が いろいろ書かれていてたいへん勉強になる良い本である。 皮相な金額問題ではなく、サラリーマンに対する税金制度の理念や 原則を詳しく書いてある点が良い。

本書では、源泉徴収+年末調整が、税金を取る側の論理に基づいており、 納税者側の意識をないがしろにしたものであることを訴えている。 そもそも源泉徴収は、戦時下の 1940 年(昭和 15 年)に 戦時増税の手段として始まり、年末調整は戦争直後の 1947 年に 始まったということで分かる通り、もともとは異常時の非常手段 であった。シャウプ勧告でも、源泉徴収は評価されていたのだが、 年末調整は廃止する方向が提案されていた。それは、年末調整まで 会社におまかせにしてしまうと納税者意識が希薄になるせいである。 しかし、年末調整はこれまで廃止されることなく現在まで続いている。

著者が源泉徴収+年末調整の問題点として挙げているものは主として 次のようなことである。

著者は、結論として、年末調整と確定申告の選択制を提案する (著者のオリジナルではなくかつて多くの人が主張していることも 書いてある)。私もこの考え方に賛同したい。実際、確定申告を 自分でやってみると、税金に対する意識が少なからず高まるのである。 本書の著者もフリージャーナリストになって初めて税金に対する 意識が高まりこのような本を書くに到ったそうである。 その他にも、給与所得控除の根拠が曖昧であるところから、 著者は給与所得控除を4分解する(もともとは日本大学の 北野教授の提案)などいくつかの提案をしている。

この本を読んで驚いた発見の一つは、国税通則法の上では、 サラリーマンは納税者ではないということだ。この法の上での 納税者の定義は第2条第5項にあり、

国税に関する法律の規定により国税(源泉徴収等による国税を除く)を 納める義務があるもの(国税徴収法に規定する第二次納税義務者及び 国税の保証人を除く)及び源泉徴収等による国税を徴収して国に納付し なければならないものをいう。
だそうで、納税者は「サラリーンマンの勤務先」になっている。そのため、 税金に関して問題が生じたとき、サラリーマンが争う相手は、国ではなく 勤務先になってしまうのである。このように税金に関する法律は、 あまりにも徴収側の論理に立ちすぎている。

この本で初めて知ったのは「特定支出控除制度」である。これは サラリーマンの「必要経費」のうちある特定費目が、給与所得控除額を 超える場合に、その超える部分を控除できるというものである。 私にはおそらく縁がないし、縁がある人はそもそも少ないであろうが、 税務署発行の「所得税の確定申告の手引き」を見るとわずか3行しか 書いていないのも困ったものである。気がつく人が少ないだろう。