対称性と保存則
佐藤文隆著
岩波講座 物理の世界 力学2、岩波書店
刊行:2004/01/28
名大生協にて購入
読了日:2004/02/16
対称性と保存則という物理の基本概念のひとつを、解析力学を使って
物理の学習者向けに解説したもの。しかし、これだけでは今一つ
わかりづらいという印象を持った。解析力学の基礎知識が要求されるのは
良いとしても、一応これだけで self-contained であってほしいのに、
やっぱりちゃんと分かろうと思うと他の解析力学の教科書を参照しないと
いけない、という感じである。もちろん、この教科書の目的は、
薄いせいもあって、勉強のきっかけにしてほしいだけ、
ということはわかるが(事実、私にとっては勉強のきっかけになった)、
対称性と保存則の間の理論の構成の系統性がきちんと見えない。
ケプラー問題に紙面を割くよりは、理論の構造をきっちり書く方に
重点をおいて欲しかった感じがする。個々のわかりにくい点は後述する。
とはいえ、私にとっては、ちょっと解析力学を復習するきっかけにはなったし、
ふつうの教科書では扱われていないガリレイ変換に関係する保存量が書いてある
のが勉強になった。この保存量は、物理的には、運動量保存則以上の情報を
与えてくれないので、ふつうの教科書には書いていない。しかし、
ガリレイ変換では Lagrangian や Hamiltonian 自体が不変にならないという意味で、
広い意味での対称性と保存則の関係を考えないといけないので勉強になる。
また、3.4 節で、エネルギー保存則を、ふつうの初等的教科書にはあまり
出ていない方法で導いているのも勉強になる。
この本で読みづらかった部分や誤りと思われる部分を挙げておく
(これは第1刷に基づく)。
- 1.1 でのルース修正ラグランジアンの導入
- ルジャンドル変換についてある程度説明しておかないと、
ルース修正ラグランジアンの定義 (1.4) の意味を理解するのが難しい。
- 1.3 の時間変換とエネルギー保存則の導入
- エネルギー保存則を導くのに、作用が不変であるという要請 (1.37) を
置いているが、この時間の並進がどう取られたかがきちんと書いていないので、
初めて読んだときは間違っているのではないかと思った。
この式をちょっと見ると、被積分関数の L(t) が中辺と右辺で同じもの
に見えてしまうが、中身も時間をずらしているので、違うものなのである。
そこが明確に書かれていない。いいかえると、この時間の並進が、
端点を固定したまま行われていることが明確に書かれるべきである。
- 1.4 のガリレイ変換に関する対称性から保存量を導くところ
- 対称性の一般論との関係が見えにくかった。(1.48) が (4.12) に
相当していることに気がつくのにしばらく時間がかかった。
- p.16 (1.48) と (1.49) の間の式
- 右辺の括弧の中に t が抜けている。
- p.31 (2.38) の下
- (誤)φ+φ0=0 (正)φ-φ0=0
- p.31 (2.39) の右辺第二項目の括弧の中
- (誤)m+m (正)m1+m2
- p.43 (3.8) の 2 行前
- (誤)時間発展方程式、あるいは運動方程式にあたる
(正)時間発展方程式が運動方程式にあたる
これ以外にも修正の仕方はある。
- p.43 (3.9) の第 2 式の左辺の括弧の中
- (誤)pi (正)pi
このあたりで、p の添字を上付きにするか下付きにするかの
統一が取れていない。添字の上げ下げは読者が適当にすれば良いと言えば良い。
- p.75 5.2 の1行目
- (誤)”垂直な”勾配ベクトル (正)接するベクトル
- 5.2 の位相空間でのモーメンタム・マップ
- ここは難しい話題にちょっとさわったということなのだろうが、
それにしても説明が不親切だと思う。たとえば、「モーメンタム・マップ」
ということばも、この節では位相空間上の関数を指しているようだが、
前の節ではマップという言葉を、群空間と位相空間の関係に用いていて、
その関係は何なのか?雰囲気を味わうのはまあ良いにしても、
こいうったあいまいさのおかげで、雰囲気以上のことがよくわからない。