桃太郎、将軍

芥川龍之介著
青空文庫 (online) 将軍桃太郎
公開:1999/01
青空文庫の元になった文庫本:1987/01/27 ちくま文庫「芥川龍之介全集4」(将軍)、1987/02/24 ちくま文庫「芥川龍之介全集5」(桃太郎)
その元となった単行本:1971/03-11 筑摩書房「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」
原作刊行:1922/01(将軍)、1924/07(桃太郎)
読了日:2005/08/27

online で読める芥川の短編。短編だと画面上でも楽に読めてしまう。

たまたま NHK ラジオ第2のカルチャーアワー「文学探訪 芥川龍之介」 (講師 文教大学教授 関口安義)を聴いていたら紹介されていた。 internet で探したら青空文庫にあったので早速読んでみた。 これら2つの小説は、芥川の中国取材に基づくもので、 プロレタリア文学に刺戟されて書いた反戦小説だそうだ。

「桃太郎」は、童話の桃太郎を徹底的に悪者にした小説で、それだけでは 意味がよくわからない。革命家の章炳麟(しょうへいりん)が「一番嫌いな 日本人は桃太郎だ」と言ったのに触発されて書いた反戦小説だということを 知って読むと、実に強烈な日本による中国侵略批判である。 日本人の残虐行為が告発されており、ぞっとする。 鬼が幸せに暮している鬼ヶ島を働くのが大嫌いな桃太郎が侵略する。 桃太郎は日の丸の扇を打ち振り犬猿雉を扇動する。犬は若者を噛み殺し、 雉は子供を突き殺し、猿は娘を凌辱した。

「将軍」も同様の反戦小説。乃木将軍の冷酷さと狭量さを描いたもの。 最後の部分に、乃木将軍の心暖まる挿話を入れておくところが、実は痛烈。 ふだんは人の好い日本人でも、中国の戦場では何をしていたのだか。 伏せ字が多い。直接的な表現は検閲で削られたのだろう。 後の司馬遼太郎の「坂の上の雲」につながるというラジオの解説があった。

芥川は、中国に行って、日本軍の悪を見てしまったのだろう。 そのことがわかることがショッキングな2つの小説である。