相対性理論の矛盾を解く

原田稔著
NHK ブックス 1013、日本放送出版協会
刊行:2004/09/30
名古屋栄の旭屋書店ラシック店で購入
読了:2005/08/11
私は相対論にはあまり慣れていないので、この本はわかりやすく相対論を 再解釈してくれて勉強になる本かなと思って買ってみたら、 この著者のほうが相対論を私より理解していないことがわかった。 相対論は間違っていると言っているわけではないからトンデモ本ではないと 思っていたら、実はトンデモ本だった。

著者は最初のほうではちゃんと普通の相対論の解説をしているので、普通だなと思って読み進めて行った。 ところが、第9章「珍説相対論」で、松田・木下「相対論の正しい間違え方」を批判しているところを読んで、 著者のほうが珍説を述べていることに気づいた。このように私でもわかる間違いをするようではいけない。 著者は2重に間違えている。まず、ミンコフスキー時空図の読み方を理解していないようだ。図で A"B' を 100メートルとしているが、それは誤りである。100メートルより長くなければおかしい。これは松田・木下 に書いてあるとおりである。ここで著者は同時性の概念を間違えている。さらに、もうひとつの間違いも同時性に 関わる。ローレンツ収縮と力が関係ないはずだと思い込んでいるが、これも同時性と関わっていることに 気付いていない。止まっている系で2つの物体が同時に動き出しても、動いている系では同時に停止する のではないのだから、その2つの物体をつないでいれば力が働くのは当然なのである。

この本の本題は次の第10章で、それぞれの基準系(慣性)系はそれぞれ固有単位系を持つというのが 相対論の正しい解釈だとするものである。著者の主張はこうである。ここにメートル尺があるとする。 これを一定速度で動かすと動いている系では 1 m に見えているはずだ。しかし、これを止まった系で見ると 「ローレンツ収縮」して見える。その長さを静止系での 1 m と呼ぼうというわけだ。そう呼ぶのは勝手なのだが、 動いているものを見るときの単位と止まっているものを見るときの単位の関係が明示されておらず、 暗に同一視することで自ら詭弁にはまっている感じである。

「列車とトンネルのパラドクス」の問題がどうなるかを見ておこう。 ふつうの見方では、この問題は以下のようになる。同じ長さ(100 m としよう)の列車とトンネルがあるとする。 列車が動いていると、止まっている系では列車がローレンツ収縮で縮んで見えるので、列車の長さが トンネルの長さより短く見える。一方、列車から見ると、トンネルが縮んで見えるので、列車のほうが長く見える。 普通は、これは同時性が2つの系で異なるのだからパラドクスではないとする。

著者はこうは見ない。まず、地上の人から見ると、先の勝手な長さの定義から、列車の長さは 100 m であり、 一方トンネルの長さはもともと 100 m なのだから同じ長さである。次に、列車から見ると、 トンネルのほうが動いている系なので、先の長さの定義からトンネルの長さは 100 m である。 一方列車の長さはもともと 100 m なのでやっぱり同じ長さであり、パラドクスは生じないというものだ。 しかしこの場合、動いているものと止まっているものの長さをどう比較しているつもりなのだろうか? 相対論ではそういうところを慎重に議論しなければならないはずなのに。

また、ミュー中間子の寿命の伸びの説明も新しくなったとしているが、 結局ふつうの相対論での説明と同じことをやっているだけの話になっていて、 固有単位系を用いたところで従来の説明を否定したことになっていない。

以下の章はバカバカしくなったので、軽く読み飛ばして終わった。