バナッハ・タルスキーのパラドックス

砂田利一著
岩波 科学ライブラリー 49、岩波書店
刊行:1997/04/22
廃棄してあったものを拾った
読了:2005/04/27
「無限」概念の不思議さを「バナッハ・タルスキーの定理」を題材にして 高校生でも読めるように解説してしまおうという本。 難しい概念をできるだけ噛み砕くようにしてあって、読みやすい。

バナッハ・タルスキーの定理とは以下のようなものである。

大きさの異なる二つの球体 K と L とを考える。このとき、K を適当に 有限個に分割し、それらを同じ形のまま適当な方法で寄せ集めることによって、 L を作ることができる。
体積(質量)保存則を無視したようなまったく妙な定理である。 実は、体積が定義できない「複雑な」図形があるので、体積保存則は 問題にならないというのがミソである。この定理の証明自体はけっこう難しいので、 この本では付録に回し、その定理の中で出てくる「無限」概念のエッセンスの部分が、 もっと簡単な例を挙げながら本文で紹介されている。

エッセンスとして最も重要なことは、私の理解する範囲では(たぶん) 次のことだろう。それは、 無限集合においては、一見「大きさ」の違う集合が「合同」になる ということである。たとえば、自然数全体の集合を A とし、A から 1 を除いた 集合を B とする。

A = {1, 2, 3, ....}
B = {2, 3, 4, ....}
B は A から1つ要素を取り除いたものなので、B の方が小さい集合に見えるが、 A の要素に1を足すと B の要素と一対一対応ができるので、その意味では A と B とは「合同」である。

定理の証明が巻末にあって、それを直接噛み砕いた形で解説してないのが残念。 ただ、それをしだすと、とてもこんな薄い本では収まらないだろうが。