特集 ベクトル―物理と数学を結ぶ知のツール

数理科学 2005 年 5 月号 (Vol.43 No.5, 通算 No.503)
サイエンス社
名大生協で購入
読了日:2005/05/30
ベクトルは初等物理から良く出てくる概念で、この特集でも特段に 変わったことが書いてあるわけではない。にもかかわらず、なぜ 買ったかといえば、ここの「流体力学とベクトル」の記事が、 丁度いま流体力学で講義を終わった部分のサマリーのようになっているから、 学生に読ませようと思ったからだ。

論説の概要は以下の通り。一番特色があるのは、最後の窪田氏の論説だろう (といっても、私は相対論はあまり詳しくないので、ひょっとすると普通 かもしれないが)

阿部龍蔵「ベクトルって何だろう」
物理に出てくるベクトルの基本的な概念のまとめ。
竹之内脩「数学におけるベクトル」
ベクトルの概念の数学的な定義の仕方をざっとまとめたもの。 物理の人間からすれば、ちょっと書き方が冷たい。
兵藤俊夫「力学とベクトル」
大学初年次で出てくる古典力学の要点が駆け足で全部書かれている。
加藤正昭「電磁気学とベクトル」
題名と違って電磁気学はあまり関係なくて、ベクトル解析にでてくる いろいろな概念を流体的なイメージでどうとらえたら良いかの解説。
神部勉「流体力学とベクトル」
流体力学によく出てくるベクトルの意味付けのサマリーのようなもの。 今私がやっている講義の前半のサマリーとしてみると丁度良い。 私が講義で何回かかけてやったことがコンパクトにまとまっている。 ただ、特集のテーマが「ベクトル」なので、テンソルの話が入っていない ところが、私の講義の内容のサマリーとしては不十分だが。
岡崎誠「量子力学とベクトル」
量子力学に出てくるブラとケットの基本的なことがら。
牟田泰三「場の理論とベクトル」
たった4ページで場の理論とベクトルやテンソルなどとの関わりをざっと 書いたもの。分かっている人にとっては簡単だが、分かっていない人には 何も分からないだろう。
窪田高弘「重力理論とテンソル」
一般相対性理論の発想がどのようにして出てきているのかを、 1916 年の一般相対論の論文に先行する 1911 年、1914 年の論文を 手がかりにたどっていくという趣向。けっこうおもしろく読めた。