薬師寺は建物が新しい。東塔と東院堂を除くと、主な建物は昭和 51 年 以降の再建。お坊さんの話によると、建築の専門家が「コンクリートは 100 年持つから」と言ってコンクリート造を主張したのに、 高田好胤管長が「木は 1000 年持つ」と言って、伝統工法で立てたのだそうな。 たぶん正しい判断だろう。そもそも木造建築の専門家が非常に少ないのが いけないのである。
建物とともに中門の仁王像が派手で安っぽく見えるのも目を引く。 さすがに気が引けたのか、このガイドブックには写真がない。 写真を置いてあるページが 薬師寺ホームページとか ここ にある。これらページによると、きちんとした時代考証の結果 こうなってしまったらしい。
中の仏像は、もちろん国宝薬師三尊を含めて由緒正しいものが多い。 しかし、一方で、釈迦十大弟子像(2002 年 中村晋也作)やら 大唐西域壁画(2000 年 平山郁夫作)などの新しい美術品を入れているのも 目につく特徴。文化は作らなければ守れないものだから、 新しいものを取り入れる姿勢は首肯できる。古い建物が少ないから大胆にできるし、 しなければならないという意味もあるだろう。新しいと言えば、 ホームページも けっこう見易いし、僧侶紹介なんていうのまであるのがけっこう現代風である。 ちゃんと宗派の話もある(東大寺など、肝心の宗教の話を書いていない HP を作っている寺がけっこう多い)。
お坊さんの解説によると、薬師寺は学問寺だから、葬式はやらないし檀家もいない とのこと。高田好胤管長は、企業に寄付を募ってみたが、名前を出さないと言ったら ほとんど集まらなくなったとのこと。無名の人が作るからこそ、長持ちする という考えのようだ。というわけでお金を集めるのが大変で、 高田好胤管長が写経を広くお願いすることを資金源にすることを始めたというのは 有名な話らしい。お坊さんの話の最後の方には、その写経のお願いがあった (1巻 2000 円)。で、その写経は保存しておいてくれるのだそうである。 このように資金に苦労するからこそ、解説にユーモアを交えてみたり、 新しい文化を取り入れてみたり工夫をしているのであろう。 奈良の古寺の中でも、「行動する寺」と言える。
ガイドブック自体は、きれいな写真とそれらの平易な解説というおだやかなもの。 宗教的なところがあまりないのは、良いのか悪いのか?