NHK 知るを楽しむ(月) この人この世界 2005 年 8/9 月 「夢枕獏の奇想家列伝」

夢枕獏著
日本放送出版協会
刊行:2005/08/01
名大生協で購入
読了:2005/09/27
奇想家というのは何かしら魅力を感じるネーミングである。 これらの人々は「突出しているけれど、社会からはちょっとずれている」 というのが魅力な人々だというのが、最後の回での夢枕獏の弁。 たしかに、なかなか真似はできないけれど憧れを感じる人々で、 独特の人選である。安倍清明に2回もかけているところは 夢枕獏の神秘怪異趣味を表している。
玄奘三蔵
シルクロードをはるばる唐から天竺に旅して経典を持ち帰り、後半生は経典の翻訳に捧げた玄奘三蔵の話。 現在でも旅をするのが大変な道を玄奘三蔵はなぜ行ったのか?夢枕獏の答えは「自分の知的欲求のため」― 単純だけれどそれしかないのであろう。玄奘三蔵は頭が良すぎた。それで他人を馬鹿にするようなところが あったので付き合いづらい人だったろうと書いてある。すさまじく個性的な人であったのだろう。
空海
空海は、きっとおそろしく頭が良く、大変な自信家でもあり、有能な実務家でもあったのだろう。 でも、最澄に「理趣教」を見せてやらないなど意地悪なところもあったようである。 理詰めの人かなと思うと、密教は勉強ではなく体得だというようなことも言っているし、 謎のような言葉も残しているし、むしろ神秘主義的だ。人物像を思い描くのがけっこう難しい。
安倍清明
夢枕獏お得意の「陰陽師」の安倍清明の話。陰陽師は、今で言えば、科学者兼医者兼占師のようなもの。 けっこう博覧強記で頭も良かったんではないだろうか。安倍清明に関しては、確かな資料があるわけではなく、 説話などを通じて語られる人物であるから、このプログラムでは、人物を語るというより 夢枕獏の思いを語っているような意味もある。たとえば、「呪(しゅ)」=「言葉」なんていうことを 言っているところがそうである。さらに、安倍家の家紋の五芒星の起源が雲南あたりにあるのではないかという 説を述べている。そして、それは星ではなく太陽を表しているのではないかという考えが語られる。
阿倍仲麻呂
仲麻呂を語りつつも、実は国際国家としての唐と国際都市としての長安を語っている回。 阿倍仲麻呂は唐で優秀さを認められ高級官僚になった。逆に言えば、当時の唐は、優秀であれば 外国人でも高い地位につける懐の深さがあった。こんなことは現代でもなかなか無い。そして 都の長安は百万の人口を有する国際都市であった。仲麻呂は李白や王維とも友人であった。 仲麻呂が仕えた皇帝玄宗は楊貴妃に夢中になって国を傾ける。こういった絢爛たる人間関係や 国際色豊かな都に思いを馳せるのがこの回の楽しみであるようだ。
河口慧海
経典を手に入れるために、日本人として初めてチベットに入った河口慧海の話。ひどくカタブツで、 送別会で餞別を贈りたいと言われて、その代わりにということで、網で魚を捕るのが趣味の人に 魚を捕らないように約束してくれと頼み、その網を燃やしてしまったという。最初は日本と国交が なかったので、かなり苦労してチベットに入ったようだ。二度目の訪問で多数の仏典、仏像、仏画を 持ち帰った。
シナン
オスマントルコでたくさんの建築を手がけた建築家シナンの話。私は初めて聞いた名前だ。 複合コンプレクスを作ったり、巨大なドームを持つモスクを作ったりで、傑出した建築家だったそうな。
平賀源内
ひどく多才でいろいろ手がけているけれど、才がありすぎてどれも中途半端なところで別なことを 始めてしまい、あまりものになったものが少ないという大才人。最も成功したのが戯作だったのだが、 それは必ずしも彼が本当にやりたかったことではないようだ。最後は、どういうわけか人を殺して 牢屋で破傷風に罹って死ぬ。
功成らず名ばかり遂げて年暮れぬ 源内