「病災」とからだの雑学

ニュートンムック、ニュートンプレス
刊行:2005/12/20
名大生協で購入
読了日:2006/02/27
病気に関する以下の解説を集めたもの。ほとんどは、かつて Newton に 掲載されたもの。それぞれ短くて素人としては読みやすい。題材も、 素人が関心を持ちそうなものをうまく選んでいる。

1 せまりくる脅威

題名鳥インフルエンザ 大流行は時間の問題!―高病原性新型ウイルス誕生のシナリオ
協力山内一也
内容 鳥インフルエンザが、人間への感染性の高い新型になってパンデミックが引き起こされることが 懸念されている。

題名牛肉輸入再開!狂牛病の危険度を知る―種の壁をこえる病原体プリオン
協力山内一也
内容 プリオン専門調査会の出した結論は、アメリカ産牛肉の安全宣言ではない。20 か月齢以下の牛を 食べても安全だという保証は全くない。
感想 アメリカ産牛肉が安全である保証が全くないことは分かったが、それにしても、 政府に安全宣言であるかのように利用されることがわかっていながら、なぜプリオン専門調査会は あんな答申を出したのか?不思議なのだが、以下の HP によると、委員会は政府に嵌められたらしい。 金子委員、品川委員は抗議の辞意を表明している。
(後日補足) 2006 年 3 月末に、プリオン専門調査委員会メンバー12名の うちの半数が辞任したらしい。伝えられる通り、最初から 結論があるデタラメさに我慢できなかったのだろう。これで、 ますます政府が信用できなくなった。
参考 HP 食品安全委は何を評価してきたのか in 神保哲生 official blog
ここに専門調査会での議論の経緯が述べられている。これによると、委員会は、 政府にいわば嵌められたらしい。これを読むと、牛肉を食うのはもう止めたくなる。 私のように外食が多いと、牛肉の産地がどこかなどわからないから、牛肉を食べるのを止める以外に 方法はない。

題名アスベストと中皮腫”静かなる時限爆弾”―アスベストはどれほど危険なのか?
協力井内康輝
初出Newton 2005 年 10 月号 アスベストはどれほど危険なのか?
内容 アスベストがいろいろな疾患を引き起こすことが注目されるようになってきた。とくに、 腹膜、胸膜の癌である中皮腫の危険性が騒がれている。しかし、中皮腫の発症メカニズムは よくわかっていない。たとえば、なぜ肺の外側で癌が起こるのか?どのようにして癌を導く 遺伝子の異常が発生するのか?などについてはっきりしたことはわかっていない。

題名先進国で日本だけが増加しているエイズ―アジアで急拡大の恐れ エイズは克服できるのか?
協力島尾忠男、本多三男、塩田達雄
初出Newton 2003 年 8 月号 世界を震撼させつづけるエイズ
内容 エイズウイルスは進化速度が速いので、ワクチンの開発が難しい。しかし、本多三男博士は、 サブタイプEに照準を合わせて、キラーT細胞(ウイルスに感染した細胞を攻撃する免疫細胞)を 活性化するタイプのワクチンの開発をしている。
エイズに感染しにくい遺伝子を持っている人がいる。それは、細胞表面のたんぱく質 CCR5 を作る 遺伝子に欠損がある人たちである。

題名C型肝炎200万人、大半が気づいていない―早期発見が肝がんへの進行をくい止める
協力熊田博光、吉澤浩司
初出Newton 2003 年 12 月号 200万人に広がるC型肝炎の危険性
内容 C型肝炎ウイルスは、輸血や薬物注射の回し打ちで感染する。そのため、戦争に関連したような 社会の混乱期に感染が多く発生する。日本では、戦後の混乱期を生きた人に患者が多い。 近年では、インターフェロンとリハビリンを併用した治療で高い効果が得られている。

2 健康になる科学

題名健康診断は意味がない?―健康診断の結果に一喜一憂する必要はないのか
協力福井次矢、北村聖
初出Newton 2005 年 11 月号 健康診断は意味がない?
内容 2005 年 8 月、通常の健康診断の多くの項目について、有効性を示す根拠が薄いという報告がなされた。 「有効であるかどうかの根拠」は以下の意味であることに注意して読む必要がある。 「有効かどうか」には2種類ある。それは、TE(その検査を行うことによって、死亡率や罹病率の低下などが見られる)と IE(その検査を行うことによって、その検査数値が改善される)とである。 「根拠がある」ということはは疫学・統計学的に効果が確かめられているということである。
胸部 X 線による肺がん検出は効果がない判定された。すなわち、レントゲン検査を 受ける人と受けない人とで肺がんによる死亡率が変わらないという根拠があった。 これには、もともと胸部 X 線検査が結核の診断に用いられていたのを、結核患者の激減に伴い 肺がんの検査として用いるようになったという経緯が背景にある。とはいえ、他の肺の病気に 効果がないともいえないから、今後継続する意味はあるだろう。
感想 健康診断の項目が、胸部 X 線の例で分かるように意外といいかげんな経緯で決まっているということに驚いた。

題名日本人は肥満にご用心を―肥満人口2300万人!なぜ太るのか?
協力吉田俊秀、酒井寿郎
初出Newton 2005 年 5 月号 日本人は肥満にご用心を
内容 肥満細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞がある。このうち、白色脂肪細胞が脂肪を蓄える。 褐色脂肪細胞は脂肪を消費する。脂肪細胞は各種ホルモンの分泌にも関わっている
日本人は糖尿病になりやすい。また、倹約遺伝子を持っている人が多く、そのような人は太りやすい。

題名慢性疲労は免疫力の低下が原因?―約6割の人が疲れている日本人、疲労とは何か?
協力渡辺恭良
初出Newton 2005 年 6 月号 慢性疲労は、脳からの危険信号!
内容 慢性疲労の人は日常的に作業効率が落ちる。原因は TGF-β という免疫物質らしい。 これは、脳から免疫細胞に「異物を攻撃せよ」という命令を伝える免疫物質である。 これが過剰に放出されると、疲労感が現れる。

題名そろそろ花粉症を治しましょう―口から花粉を取り入れるだけで花粉症が根本から治るかもしれない
協力大久保公裕
初出Newton 2004 年 5 月号 花粉症の9割に有効な新療法
内容 花粉症の治療法として舌下減感作療法が有効であるようだ。減感作療法とは、 花粉にだんだん慣らしてゆくという治療法である。花粉の場合は、花粉を含んだ液体を 舌の下に垂らして、口の粘膜から花粉を体内に取り入れさせるのが良いようである。 これが舌下減感作療法である。

題名ペットにかまれて死亡。なぜ?―ペットがもたらす暴走アレルギーに要注意
協力新妻知行
初出Newton 2005 年 1 月号 ペットがもたらす暴走アレルギー
内容 ペットにハムスターを飼っていて「ハムスター喘息」になっていた人が、そのハムスターに噛まれて 「アナフィラキシーショック」で死亡するという事故が起こった。アナフィラキシーショックは、 すでにあるアレルゲンに対してアレルギー反応がある人において、そのアレルゲンが血流に乗って全身に 回るようなことがあった場合に起こる。そうなると、全身でアレルギー反応が起こって 重篤な状態に陥ることがある。日本でもっともアナフィラキシーを引き起こしているアレルゲンはハチ毒である。

3 体にまつわる雑学

題名体内時計が睡眠を左右する―時差ぼけ、夜型生活、休日あけの起床 眠りの科学最新レポート
協力粂和彦
初出Newton 2004 年 7 月号 体内時計が睡眠を左右する
内容 睡眠は、「体内時計」と「睡眠不足による眠気」の2つがコントロールする。 「眠気」は、起きている間、その時間の分だけ増加する。「体内時計」は、 哺乳類では4つの蛋白質がコントロールしている。アクセルの役目をする蛋白質と ブレーキの役目をする蛋白質があって、1日周期の反応サイクルを構成している。 体内時計は光によって修正される。

題名生体認証であなた自身が「鍵」になる―指紋、静脈、虹彩…。今、急速に社会へ進出する生体認証をレポート!
協力小松尚久
初出Newton 2005 年 8 月号 生体認証であなた自身が「鍵」になる
内容 本人証明の方法として、生体認証が使われ始めてきている。 指紋、虹彩、手の静脈パターン、顔、声、筆跡等、さまざまな方法やそれらの組み合わせが検討されている。

題名ここまでわかる最新!DNA鑑定―指紋、爪、毛髪、骨…。微量な試料から個人特定へ
協力福島弘文
初出Newton 2005 年 4 月号 ここまでわかる最新!DNA鑑定
内容 PCR 法が広く使われるようになって以来、非常に微量の試料から DNA 鑑定ができるようになってきた。 鑑定には DNA の STR (short tandem repeat) と呼ばれる部分(塩基配列のくりかえしがある部分)を用いる。 この部分には蛋白質をコードする情報がない代わりに個体差が大きい。複数箇所の STR を調べると 個体や血縁関係の特定ができる。母親からしか受け継がれないミトコンドリア DNA、父親からしか 受け継がれない Y 染色体の分析は、親子鑑定や性犯罪の鑑定に有用だ。

題名私たちは”におい”に支配されている?―理性ではコントロールできない”フェロモン”によるコミュニケーション
協力森裕司、東原和成
初出Newton 2005 年 8 月号 私たちは”におい”に支配されている?
内容 においには、通常のにおい「感じるにおい」と、理性を超えて行動を引き起こすにおい「動かすにおい」がある。 後者のことをフェロモンと呼ぶ。その2種類のにおいでは、それをキャッチする場所も、その情報が伝わる 脳の部分も異なる。フェロモンをキャッチするのは「鋤鼻(じょび)器官」と呼ばれる場所だが、 ヒトでは痕跡しか残っていない。では、ヒトにはフェロモンは全くないかというと、そうでもないらしい。 ヒトの場合は、嗅上皮にフェロモン受容体があるらしい。ひとつの効果としては、「ドミトリー効果」が 知られている。これは、親密な共同生活を続けていると、女性どうしの月経周期が同期してくる現象だ。

題名ヒトは「冬眠」できる―冬眠には効能があふれている。実現へのカウントダウン
協力近藤宣昭
初出Newton 2004 年 5 月号 ヒトは「冬眠」できる
内容 哺乳動物全 20 目のうち 7 目で冬眠する動物が知られている。冬眠には3つのタイプがある。
  1. 体内に周期性があって、かつ体が低温になるもの(例:シマリス)。
  2. 体内の周期性がなく、外界の温度変化のみで冬眠が起こり、かつ体が低温になるもの(例:ゴールデンハムスター)
  3. 体温があまり下がらない冬眠(例:クマ)
シマリスの冬眠の周期性にはある蛋白質の1年周期の増減が関わっている。ヒトの「冬季鬱症」も 似たメカニズムが関与しているのかもしれない。