プリオン説はほんとうか?―たんぱく質病原体説をめぐるミステリー

福岡伸一著
ブルーバックス B1504、講談社
刊行:2005/11/20
名大生協で購入
読了日:2006/05/11

狂牛病(伝達性スポンジ脳症)のプリオン説とその問題点に関する分かりやすい 解説である。好意的な書評を見たので読んでみたら、実際良い本だった。 プリオン説がどのように確立されてきたかを要領よく解説してあり、 その問題点もしっかり書いてある。著者は、狂牛病の病原体は プリオンではなくむしろウイルスが原因だと考えていることが分かる。 ただ、そのウイルスが見つかっていないので、現状ではどちらの考え方が 正しいのか分かっているわけではない。私は、これまではプリオン説が だいたい確立されたのだと思っていたので、プリオン説を丁寧に批判的に見ると こういうふうにまだまだウイルスだと考えられる余地が多いことを知って、 新鮮だった。この本は、説明の仕方が上手なので、順番に読んでいけば ひっかかりを感じさせずに無理無くさっと読めるのが良い。索引や相互参照 (専門的な概念が説明されていたページがどこか示してある)が比較的しっかり しているのもそれに寄与している。

ウイルス説の場合は、正常型プリオン蛋白質は、病原体のレセプターであると 考える。異常型プリオン蛋白質は、感染の副産物であるということになる。 正常型プリオン蛋白質をノックアウトしたマウスが伝達性スポンジ脳症を 発症しないことがプリオン説を支持する大きな証拠だったが、これは 正常型プリオン蛋白質が病原体のレセプターであると考えれば説明できる。 免疫反応がないことも問題だったが、病原体が免疫系に何らかの作用を しているか免疫系を慣らしている可能性もあり、ウイルス説を否定することには ならない。

医学部の人(群馬大中澤港氏)が書いた丁寧な書評を見つけた。 ここに書いてあるのだが、元となっている論文の書誌情報が無いのが たしかに欠点ではある。一般向の本ではあっても、ある程度そういうものを 付けるべきだとは私も常々思っている。とくに専門がちょっと離れたくらいの人が 読む場合には、関連知識を得たかったり、書いてあることの正しさを確かめたい ことがあって、必要性が高い。それに関連して、 県立新潟女子短期大学の人が関連ページへのリンクを作ったものも見つけた。