古代朝鮮

井上秀雄著
講談社学術文庫 1678、講談社
刊行:2004/10/10
文庫の元になったもの:1972 日本放送出版協会刊(NHK ブックス 172)
名大生協で購入
読了日:2006/01/06
朝鮮半島の神話的時代から統一新羅の滅亡までの歴史を記述したもの。 主として文献に基づいた研究に依っているので、考古学的な記載は少ない。 全体的に見ると、古代朝鮮社会の基本が地域共同体、あるいは地縁であることを 強調している点が特徴である。それから、従来「倭」=「日本」という日本寄りの 歴史記述が多かったのを改め、「倭」は必ずしも日本を指すのではなく、 朝鮮半島南部を主として指していることを強調している。これは、私は初めて 知ったのでなるほどと思った。

この本は必ずしも読みやすくはない。地名や書名などの固有名詞がいきなり 出てきたりして、素人の私にはよくわからないことも多かった。 いちいち調べている時間もないので、適当に想像で読んだ。話が前後するところも 見受けられた。にもかかわらず、最後までけっこう楽しめて読めたのは、 私が韓国観光をしたからである。三国時代の旧新羅にあたるところを見て回った。 地形としては、それほど高くない山がずっと連なり、その間に小さな平野がある という特徴がある。それで、地域共同体が基本の国であったというのは納得がいった。 大きな平野がないので、大きな中央集権的統一国家が出来やすい感じがしない。 首都であった慶州も周りを山に囲まれた(現在では)田舎の風景である。

首都がどうしてそういうところにあるのか不思議であったが、その理由の 一端がこの本に書かれている。このあたりで一番大きな川は洛東江(現在の 安東から大邱の西を経て釜山に流れている)なのだが、この川が 傾斜が非常に緩く、沖積平野は洪水時に水が溜りやすくて古くは農耕に 適さなかったのだそうだ。そこで、谷間や盆地にむしろ人が住むことに なったという事である。この点は日本とはだいぶん違う。 とはいえ、良く考えると、ここで扱っている時代は日本で言えば平安初期まで であり、日本の都も奈良盆地のあたりをうろうろしていたころだから、 日本と朝鮮半島の事情は今思うほどは違わなかったのかもしれない。

この本は 2004 年に刊行されているが、その元は 1972 年で、もう 30 年以上も 前の本である。その 30 年で世の歴史認識は変わったのかどうかも知りたくなった。