廃墟の歩き方 探索篇

栗原亨監修
イースト・プレス
刊行:2002/05/10
愛知県一宮市の古本屋 BOOK OFF 一宮妙興寺店で購入
読了日:2006/02/17

これは廃墟の写真を中心とした本である。廃墟という言葉には、遺跡という言葉にも 似たある種のロマンを誘う響きがある。もっとも、実際に行ってみたら、汚いし 危ないし、とんでもないということになるかもしれないけれど。しかし、ともかく、 この本の文と写真とを見ていると、時代の栄枯盛衰を感じさせて、 どの廃墟にも哀感がただよう。これらのものは、いずれきちんと取り壊されるか、 朽ち果てるかであろう。実際、これらの写真が撮られたあとで取り壊されたものも 多いようである。

中には、これは廃墟にするんじゃなくて保存しておいた方が良いのではないかと 思えるものも多い。実際著者もそう書いているものには、たとえば、金沢市の 高級旅館白雲楼がある。フランク・ロイド・ライト設計の名建築だそうだ。 しかし、 ネット上の情報 によると、すでに不法侵入者によってひどく荒されているために 解体やむなしということになったようだ。結果的に言えば、このような本が 出版されたことも不法侵入者の増加に寄与したのかもしれない(本が出なくても ネットにはたくさん出ているから、たいして関係ないかもしれないが)。

巨大で偉容を誇るものにも保存する価値があるかもしれない。そのようなものには、 工場や鉱山がある。工場としては、東京プライウッドと伊万里造船所(川南造船所) がカラーページにもなっている廃墟だ。東京プライウッドは読んで字の通り 合板製造工場だった。ネット情報だと、廃墟ファンに人気が高かったようだが、 2003 年春に解体されてしまったらしい。伊万里造船所(川南造船所)は、 基本的にコンクリートの骨組みだけなので、今でも残っているようだ。 写真のキャプションによれば、「美しさでは今までの廃墟で最高ではないだろうか?」 ということで、ファンも多いらしく、ネット上でも多くの写真が見られる。

鉱山としては、岩手の松尾鉱山、長崎の軍艦島が、東西の横綱として紹介されている。 どちらも、鉱山とその労働者の町が一体になったもので、一つの町全体が コンクリートの塊として残っている。松尾鉱山は硫黄鉱山、軍艦島は炭鉱であったが、 硫黄は石油からの副産物に押され、炭鉱は掘り尽くされて閉山となった。 時代の流れを感じさせる。松尾鉱山は、サバイバルゲームなどでけっこう 荒らされているらしい。軍艦島は、無人島なので人為的な荒廃は少ないものの、 周囲が海だし、台風や豪雨の多い地域であるので、けっこうボロボロのようだ。 ただ、軍艦島に関しては保存に向けた動きもあって、 「軍艦島を世界遺産にする会」 なんていうのもあるらしい。保存といっても、 廃墟ファンなら、あまりきれいにされると、魅力が薄れるなんて言いかねない。 廃墟の趣きを残すか、操業当時の様子まで復旧するか(これはお金がかかりそうだ)、 難しい問題が出てくるだろう。