週刊 人間国宝 (第10巻まで)

週刊朝日百科、朝日新聞社
刊行:2006/05/28(No.1)-08/06(No.16) (実際は 2006/05/16-07/25)
名大生協などで購入
読了:2006/08/30
人間国宝の技を紹介するシリーズ。大きく工芸技術と芸能の2部門に分けられている。 工芸技術は、いわゆる藝術ではなく、用の美である。使えるデザインが 藝術とは違って心地よさを生み出す。加えて、藝術との違いだと思うのは、 工芸作品は、年を取ってからの作品の方が完成度が高くて 洗練された良いものになっている感じがすることである。 芸能のほうは、この本だけでは本領がよくわからないので(映像ではないので当然)、 そういうものかと思って見てゆくだけ。

10巻まで買ったところで、忙しくてそれ以上あまり読む暇もなくなったので、 購入を中止することにした。あんまり趣味に走ってはいられない。

以下、各巻の内容と感想。

陶芸1:「色絵磁器」富本憲吉、「染付」近藤悠三
富本の年を取ってからの洗練された作品では、羊歯や定家葛の華麗な連続模様が特徴。 一方で、近藤の年を取ってからの特徴は、大胆な染付金彩。
染織1:「紬縞織・絣織」宗廣力三、「紬織」志村ふくみ・佐々木苑子
宗廣力三の項では、郡上紬というものがあることを初めて知った。 宗廣のは、幾何学的で几帳面な感じの模様が特徴。志村の織物は、 明るく鮮やかで洗練されたデザインが現代的。佐々木の織物はずっと地味だけど、 良く見ると細かい模様や色使いに丁寧に気を使っている。
歌舞伎1:「女方」七代目尾上梅幸、六代目中村歌右衛門、四代目中村雀右衛門、七代目中村芝翫
日本の様式美のひとつの極である女方のはなし。
漆芸1:「蒔絵」高野松山、松田権六
松田権六の蒔絵や螺鈿は、日本の蒔絵技術の極致とも言えるような精緻で優雅なもの。 高野松山のは、デザインはもう少しおおらかで、変塗(かわりぬり)や木地蒔絵などの 多彩な伝統技法に特徴がある。
人形1:「衣装人形」堀柳女、二代目平田郷陽、野口園生
切れ長の目の女性が落ち着いたたたずまいを見せるのが、堀の人形。平田は、写実から 始めただけに豊かな表情と動きが特徴。ここに載っている「子雀」の子供の人形の表情には 思わず引き込まれそうになる。野口の人形の特徴は、丸いユーモラスな顔の穏やかなもの。
舞踊:「歌舞伎舞踊」七代目坂東三津五郎、花柳壽應、二世藤間勘祖、藤間藤子、花柳壽楽、 西川扇藏、花柳寿南海、「京舞」井上愛子、「上方舞」山村たか、吉村雄輝
伝統の日本舞踊の世界。
染織2:「友禅」森口華弘、「刺繍」福田喜重
華やかで洗練された友禅と刺繍が紹介されている。
金工1:「蝋型鋳造」佐々木象堂、「鋳金」高村豊周、齋藤明、「梵鐘」香取正彦
鋳造による金工の世界。佐々木象堂のは、伝統的な意匠とモダンなフォルムを融合した 格調の高いもの。高村豊周のは、現代的でシンプルなフォルムが特徴。 齋藤明は、高い鋳造技術を生かした吹分などでさまざまの金属の表情を生かしている。 香取正彦は、古典研究をベースに伝統を重んじ、戦後 150 以上の梵鐘を製作した。
音楽1:「長唄 唄」吉住慈恭、七世芳村伊十郎、十四世杵屋六左衞門、日吉小三八、 杵屋佐登代、杵屋喜三郎、東音宮田哲男、「長唄 三味線」山田抄太郎、杵屋栄二、 三世今藤長十郎、今藤綾子、杵屋五三郎、「長唄 鳴物」寶山左衞門(笛)、堅田喜三久(小鼓、太鼓)
江戸に始まる長唄の世界。
木竹工1:「木工芸」黒田辰秋、中川清司、村山明
京都の木工芸家3人の紹介。黒田は塗師屋に生まれたが、やがて木工品の一貫製作を 行うようになった。重厚な作風が特徴。京大近くの喫茶店進々堂のテーブルセットが黒田の 作品だとは知らなかった。また、豊田市美術館がけっこう黒田作品を集めているというのも 初めて知った。村山は、黒田の弟子で、シンプルでなめらかなフォルムが特徴。中川は、 柾目を組み合わせた柾合わせの洗練された技法の使い手。