私は素粒子の勉強はほとんどしたことがないので、こういう本を 読むときに本当の意味で良く分かることは期待していない。 論理が頭に入るように書かれているかどうかが問題である。 論理が切れないように丁寧に書かれていれば、一応 わかったような気になることができる。この本の場合は、 結局残念ながらあまり分かった気がしなかった。
一応わかった気がするらしいことは、
(1) 弱い相互作用は W boson が媒介し、小林-益川行列で記述される。ということだ。しかし、分からなかったことには、たとえば
(2) 弱い相互作用では、クォークの世代が変わり、ストレンジネスが保存しない。
(3) 小林-益川行列に位相があることが CP 非対称を表現している。
(4) K 中間子、B 中間子で、粒子とその反粒子とで崩壊の確率が異なることが実験的に 証明されて、CP 非対称性が証明された。
(1) K 中間子ですでに CP 非対称が見つかっているのに、 その上 B 中間子で CP 非対称を見つける意義は、量が大きいという 以上に何があるのか?などがあり、今一つ核心がわかった気がしない。
(2) K 中間子と B 中間子の CP 非対称が見つかったことで、小林-益川行列に関して 何が言えたのか?
分かった気がしない理由のひとつは、自分の勉強不足を棚に上げて言えば、 以下に書くように、論理的につながらない部分がけっこうあるからだと思う。
論理に飛躍がある場所
(1) p.37 の終わり 「粒子←→反粒子の変換がCP変換である」ということが
書かれているが、それ以前に説明がなく、いきなりでてきている。
(2) pp.42-44 θ 粒子と τ 粒子というのがでてきて、それが
どうなったのかが explicit に書かれていない。後を読んでいくと、
それは K 中間子であるということになったのだということがおよそ
わかってくるのだが、explicit にそう書かれていないと心配である。
(3) pp.45-46 標準模型と新しい物理が対比されているが、そもそも
標準模型が何を指しているのかが勉強したことがないからよくわからない。
p.46 で、トップクォークを含んでいないものを標準模型と言っているらしい
ことがわかるのだが、一方で p.44 では「トップクォークは標準模型では」
と書いてあるので、混乱する。
(4) p.57 J/ψ粒子の発見のすぐ後に、これが B 中間子の発見であると
書いてあって意味が分からない。J/ψ と B が同じものならわかるが、
J/ψ=(c 反c), B 中間子は b (or 反b) と他のものの束縛状態で別物なので、
関係が不明。
(5) p.71 図7.1 から cK と cb が (7.18), (7.19) の
ように書けると書いてあるのがよくわからない。図 7.1 (a) だと、
t (top quark) が書いていないのに、cK の表現に t が
入っているのはなぜだろうか?あるいは (7.19) のλとはどう定義される
ものだろうか?このあたりは K 中間子と B 中間子の違いといった
問題の本質に関係がありそうなのだが、よくわからない。