国民国家とナショナリズム

谷川稔著
世界史リブレット 35、山川出版社
刊行:1999/10/25
名古屋名駅地下の三省堂名古屋テルミナ店で購入
読了日:2006/12/01

愛国心などというものが教育基本法に入れられかねないというときに、 国家とは何かということを少し考えてみたくなって読んでみた。 この本では、ドイツ、フランス、イギリスの近代国家形成史を省みて、 ナショナリズムについて考察してある。薄い本なので、それほど 突っ込んだ議論がなされているわけでもないが、ざっと要領よく 書かれている。以下、サマリー

サマリー

ドイツは、17-18 世紀には小邦分立のモザイク状態だった。 一応、神聖ローマ帝国がそれらを統括しているはずだったが、 実質的には形骸化していた。ナポレオンに敗北したことがきっかけとなって、 やがてドイツ統一の方向へと向かうことになった。ドイツ国家形成の特色には などが挙げられる。

フランスは、近代以前から一つの国家があったので、領域的連続性はずっとある。 近代国家形成は、数回の革命を経ての共和制の浸透という形を取った。 そこで、近代フランス国家の特色としては

ことなどがある。

イギリスは、現在でも、イングランド、スコットランド、ウェールズ、 北アイルランドの連合王国である。サッカーやラグビーでは4ヶ国それぞれが 代表を出している。統合は比較的おだやかで、スコットランド、北アイルランドには 独立を求める動きもある。

というわけで、ヨーロッパの国々の事情は実はけっこういろいろである。

国家に対する考えで方として、最近の流行では、国民国家はフィクションで 国民意識は幻想である、というものがある。しかし、歴史から見ると これはちょっと言い過ぎである。A.D. スミスは、「エスニー」と「国民」という 概念を区別する。「エスニー」はある種の文化共同体である。 「国民」は文化・政治・経済の共同体である。支配的なエスニーが 他のエスニーを取り込んでいって一体化したものが国民国家だと考える。 そのようにして形成されたナショナリズムは、世俗的な宗教だと考えて良い。 筆者は、EUに楽観的な希望を抱いている。 たとえば、「バイエルン人、ドイツ人、ヨーロッパ人」といった3重の帰属意識が 安定化をもたらすのではないだろうか。