文化大革命

矢吹晋著
講談社現代新書 0971、講談社
刊行:1989/10/20
名古屋黒川の古本屋 BOOK OFF 黒川店で購入
読了:2006/03/31
文化大革命は、中国の近代化を何十年も遅らせたといってよい。現代においては、 この遅れは致命的になる可能性さえある。で、どうしてこんな変てこりんな事が 起こってしまったのか知りたくなって、ざっと読んでみた。この本がそういう本質に 迫っているかというと、いま一つの感もあるのだが、文革の概要をコンパクトに まとめてあるという意味では勉強になる。文革のころは、私は子供だったので、 あまり同時代という意識はなかったのだが、改めて年表を見直してみると、けっこう 同時代の部分があったんだなあと思って感慨が深い。私は中国に生まれていたら、 悲惨なことになっていただろう。

文化大革命の責任が毛沢東にあることは明白で、それはこの本でもよくわかる。 しかし、それを一歩進めて、システムとしてどこに問題があったのか、なんていう 話になると、この本ではあまりよくわからない。毛沢東がなぜ死ぬまでこんなに 絶対的な権力を揮いえたのかも今ひとつわからないところだ。 革命を叫び続けて人気があるという点では、改革を叫び続けて人気を保ち続けている 現在の小泉政権と似たところがあり、そんなものかなあとも思う。

一方で、分業や商品経済を廃止し、極端な平等主義を唱えるというところは、 毛沢東を単に極悪非道で自分勝手な指導者であるというだけでは 捉えきれないところではないかと思う。現実から遊離してマルクス・レーニン主義を 教条的に解釈するというところは、日本の共産主義もかつて経験したことだ。 現代ではこのような極左的主張が流行らなくなった代わりに、何でも効率とか市場とか 別の教条が出ているだけの話である。

文革の犠牲者の物語は、悲惨である。こういう激動の不条理な時代を、どうやるとサバイバル できるのかは実に難しい問題である。文革に反対すると粛清されるし、推進すると文革後に牢屋に入る ことになる。党中央で両方をサバイバルできた人は非常に少ない。 周恩来は長きに渡ってトップ近くにいたが、要は あまり自己主張せず実務能力だけでサバイバルしていた感じである。 さらに (1) 毛沢東より先に死んだので文革後に生きていたわけではない (2) 甚だしく私欲を抑えていた (3) それでも四人組に批判された、ということで、 本当に乗り切れたと言えるのかどうか良く分からない。 鄧小平は、文革後に復活して中国ナンバーワンになったが、 文革期には何度も失脚し、工場労働させられていた時期もありで、 綱渡り状態であった。さらには、後に胡耀邦、趙紫陽を失脚させ、 1989 年の天安門事件で民主化を潰したという意味では、 あまり誉められたものでもない。

ちょっと読みにくいのは、登場人物が多くてこんがらがってしまうことだ。 主要人物については経歴から死まで一通りのことが書いてあるのだが、 そうでない人物はいきなり名前が出てきて それっきりになっていることもあって、不満が残ることがある。 せめて人物名索引があるとずいぶん読みやすかったのではないかと思う。 図7の党のトップの人物の変遷はある程度 それに代わるものとして役に立つのだが、これだけでは足りない。 中国の政治組織名も私にはよくわからないところがあるが、 その程度は自分で調べろということか?

これに対し、時系列は図1と巻末に年表があるので、混乱を防ぐ役割を果たしている。


ところで、著者の矢吹晋氏の ホームページや関連ホームページ 21世紀中国総研は、 中国の現在を見るのに非常に参考になる。