DNA に刻まれたヒトの歴史

長谷川政美著
NEW SCIENCE AGE 44、岩波書店
刊行:1991/06/05
廃棄してあったものを拾った
読了日:2007/05/01
分子系統学が、人類の系統進化に関する考え方を決定的に変えたことを わかりやすく解説してある本。分子系統学が出来る前は、人類は猿とは 決定的に違ってずいぶん昔に分岐していると考えられてきたが、 分子系統学によって、ヒトとチンパンジーが極めて近いことがわかってきた。 以前の考え方には、ヒトを特別扱いしたいという偏見が入っていたことが 明快に書かれている。今の考え方では、真猿亜目の系統樹は
  --------------------------オマキザル上科(新世界ザル)
       |
       ---------------------オナガザル上科(旧世界ザル)
            |
            ----------------ヒトニザル上科(類人猿)
であり、さらにヒトニザル上科の系統樹は
  --------------------------テナガザル
       |
       ---------------------オランウータン
            |
            ----------------ゴリラ
                |
                ------------チンパンジー
                  |
                  ----------ヒト
となるとのことである。ヒトとチンパンジーが分岐したのは、(地質学的には) ごく最近で 400-500 万年前だそうだ。

この本は 16 年前に書かれたものだが、以上のような点に関しては、 おそらく今でも変化はないであろう。大筋以外の点では、少し古いかと 思える箇所もある。たとえば、p.65 で、哺乳類、鳥類、爬虫類の系統関係が 不明であるとしているが、私が最近の恐竜展などで見る限りにおいては、 鳥類は恐竜の子孫であることが確実視されてきているようである。あるいは p.122 には「(1990 年代には) ヒト・ゲノム・プロジェクトもある程度進むだろう」 と書かれているが、早くも 2003 年には一応の解読完了宣言が出された。

この本では、昔人類の祖先と考えられた Ramapithecus が、実はオランウータンの 祖先だったことがわかるに至ったいきさつが書かれている。しかし、 Austoralopithecus 等の絶滅人類を含んだ人類の系統樹は、 絶滅人類の DNA が分析できるわけではないので、今でも混沌としているようだ。 最近の人類の系統樹の 一例 (これの 5 頁目)を見ると、人類の系統は いろいろ複雑に分岐していると今では考えられているようだ。 本書ではヒトの祖先であるかのように書かれている Austoralopithecus africanus は、上の例だとヒトの祖先なのかどうかはっきりしないような描き方が なされている。Homo habilis や Homo erectus はヒトの祖先ではなくなって しまったみたいだ。